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ナンバー・ゼロのあのレビュー・感想・評価

ナンバー・ゼロ(1971年製作の映画)
5.0
カメラを回してカットをかけて編集をしている時点で既にある程度フィクションであることを意識してか、インタビューをし、カチンコを打つ自身も映してしまうという変わった映画でした。そして電話も普通にするという。

ドキュメンタリーの嘘を映すことで、語られる内容により真実味を持たせる狙いなのでしょうか。

でもそんなことよりも多分、どんな人間の話も聴かせるものがあるという当たり前の事実に開眼させられたことが最も重要に思いました。

戦争や革命という派手なフランスの歴史の中に、実母とのかけがえのない7年を過ごし、継母にいじめられて、息子を全員無くし、そして孫と二人暮らしをするオデットの名前を書き込む作業に、殆ど匿名だった歴史の重みを感じました。映画や小説の作家を重視したり、有名人の偉業をわざわざありがたがることが、いかにありふれていて豊かな個々人の物語から疎外された惨めな状態なのかを痛感させられました。

映像作家としてのユスターシュとオデットの孫としてのユスターシュ、語り手として準備されたオデットと素のオデット。最初は一度聞いた話を映画として順序立てて演出しているようなのが、次第に時系列もぐちゃぐちゃになり、真にオデットの語りが浮かんできたような瞬間がありました。少なからず演出をしているのに、かえって真実に近づいている感じです。

「もっと不幸な人はいるけど、私の息子は全員死んだ。」
まさかオデットも目の前の孫が実は長くないとは思いたくなかったでしょう。もう鬱だったみたいですが。これで長寿の家系だというのが皮肉です。

今回の特集の中ではダントツで一番よかったです。
あ