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淵に立つのkoheiのレビュー・感想・評価

淵に立つ(2016年製作の映画)
3.9
《静かに燃え上がる罪と罰の物語》

キネマ旬報10月下旬号の「明日の日本映画監督地図」という企画の中で深田晃司監督が語った、日本映画界ひいては日本社会へのアンチテーゼには感銘を受けた。要約すると、日本映画界は大手映画会社3社(とくに東宝)が市場を独占(寡占)し、その結果として映画の多様性が失われていることに対して批判的に述べているのだが、その考えと今作のテーマが「既存のものへ対する多様な見方(もしくわ破壊)」という点で重なったことにも驚いた。


今作は、
下町で金属加工業を営む夫婦の前に1人の男が現れ、だんだんと平和な家庭が崩壊していくさまを描いた「家族」の物語。
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こんなに奇妙な家族ドラマを見たのは初めて。邦画の得意とする家族ドラマには「笑いあり涙あり」というような優しいものが多いし、自分自身そういった作品しか見てこなかった。しかし今作ではそういった"甘い"家族ドラマが破壊され、どこか気味の悪い家族が描かれるのに、それでいてこうゆう家族もあるよな、と納得させられてしまう。そこが凄い。

象徴的なオルガンピアノの演奏で始まる今作は、伝統的で父権的な家族を描いているが、そこには常に危険が孕み、やはり監督はそういった集団を批判的に撮っている。家族は安らぎの場で自由だと自分自身は考えてきたが、彼に言わせれば「家族は不条理で不思議な集団」なのである。結局みんなバラバラで考え方も違うくて、というのが"不条理"と唱える理由。

そして、物語内での夫婦間の考えの違いが顕著に表れるのが「罪と罰」の考え方。些細な価値観の違いとかではなく、人間の本質の部分での違いを見せつけてくる。「罪は償えば赦される」というのが妻の考え方で、「罪は永遠に残り、子孫にまで受け継がれていく」というのが夫の考え方だろうか。謎の男に懺悔のような事をされ罪を赦す妻と、謎の男に怯えどこか未来を悲観している夫の対比が随所で見られる。

ラストで家族が再生したと捉える人もいるだろうが、僕は子供たちが罰を負う形で終わり、本格的に崩壊したんではないかと思った。となるとこの物語が本質的に何を伝えたかったのか、ここが全く分からない。夫の価値観の方を肯定しているのか、世の中には不条理なことがたくさんあると伝えているのか、はたまた多様な見方を養えよと言っているのか。個人の感想としては「難解な映画」というイメージだけが残る。。自分はまだ既存のものに捕らわれているということか。世界で評価された作品というところがポイントかもしれない。
まぁあれこれ考えながら見れて楽しかったけどねー☻なんやかんや好きなんだよなこうゆう映画。

しかし『寄生獣』とか『岸辺の旅』でも感じてたけど、浅野忠信の"人間を辞めた怪物感"はかなり苦手だ。それだけに凄味があるのは確か。役者と監督の本気が伝わってくる映画は好き。
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