heroko

潜入者のherokoのネタバレレビュー・内容・結末

潜入者(2015年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

1980年代の実話を基にした麻薬潜入官の話。

ロバート・メイザーという実在したアメリカ関税局捜査官。Cチェイス(現金を追う)作戦を敢行する。それは麻薬を追うのではなくそれに生ずる莫大な資金を掴む方法。それには麻薬組織だけでなく大手銀行の不正も関与していた。
情報屋から仕入れたネタを駆使して様々な麻薬組織の幹部と近づき大富豪ビジネスマンのボブ・ムセラとして別人となるメイザー。通信手段も利便性も今とは限られる時代に鞄型録音機一つで乗り込み、繰り広げられる裏の会話を録音し解析・振り返りをしながら自らの動作・言動に矛盾がないように彼らの懐へ潜入していく様がハラハラドキドキして見応えあり。一言一句が命取りとなるこの世界では相当の知識と度肝が据わってなきゃこの人物にはなりきれない。想像以上の重圧がのしかかっていた事だろう。失敗は自分はおろか家族、同僚の命の危険を晒す事となる。
しかし、潜入捜査といえども環境を共に過ごしていくうちに憎き麻薬組織幹部と皮肉にも信頼、友情が芽生えていく…。「親しくなりすぎたようね…。」この言葉が感情を揺さぶる。
そんな彼らをボブ・ムセラと偽婚約者との結婚式に招待して一斉検挙するという最大の正念場が待っているのだ。麻薬組織犯罪者としてしか見ていない本部の人間と潜入捜査をしている立場の人間には大きな違いが生じてしまうのもうなずける。しかし、私情を用いて本来の意義を忘れてはならない、必ず捕まえることだけを考えて捜査に専念する。

こんな過酷な任務のためなら厭わないのかと思いきや奥さんへの貞操だったり、捜査官としての葛藤や家庭を守るのか捜査官として演じる苦悩が描かれていて良かった。
その一つが、多忙で忘れていた結婚記念日のディナーなのに捜査上の知り合いに出会い咄嗟に奥さんを秘書の誕生日祝いだと言い、ウェイターにいちゃもんをつけて暴言を吐いた後の車内の帰り道が辛かった…お互いに〝わかってる〟けど…。こんな姿見たくなかったし、見せたくなかった。お互いのズシンとした重さが伝わる。捜査中の人格は別人だった。
奥さんも危険な夫の仕事にヒヤヒヤしながら、さらに職場の部下といえども偽装結婚をするため何日も家を空け麻薬組織幹部の家に泊まりに行き婚約者らしく振る舞い、結婚式以来袖を通していないタキシードを渡したりと心中辛いだろうなと思うことばかり…。

長いかな?とも思ったけど充分なストーリー展開に大満足でした。
heroko

heroko