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メーテルレジェンド 交響詩 宿命 第二楽章のtakのレビュー・感想・評価

3.5
メーテルとエメラルダスが機械人間の陰謀に立ち向かう物語の後編。機械人間ハードギアの支配はなおも続く中。女王プロメシュームの身体は次第に機械に支配され、人間としての母としての感情が失われようとしていた。ハードギアの魔手から娘を逃れさせようと脱出することを勧める女王だが、娘二人は悪に立ち向かう、母を救いたいと首を縦に振らない。正気を失いつつある女王と娘に決断の時が近づいていく。

松本零士のメカ表現は、「999」の機関車内部に見られるように無数の計器やインジケーターが描かれることだ。子供の頃はよく真似て描いて楽しんでいた。しかし、本作ではそれらがプロメシュームの美しい身体からケロイドのように浮き上がってくる。この場面は、前作から続くホロコーストを思わせる描写と重なって不快な気持ちにさせられる。

娘を思う気持ちを口にした次の瞬間には、ハードギアの命令に従い、メーテルに殺意をむき出しにする。母に銃を向けてでも立ち向かうと言うエメラルダスと、それでも母を救えないかと迷うメーテル。葛藤のドラマはますます混沌としていく。

二人を助ける老人ダガーとその息子も印象的な存在。「メーテル様のおかげで人間の心のまま死ねます」のひと言に泣ける。

プロメシュームが正気に戻るたびに、それまでの会話が蒸し返されるので、中盤は話が遅々として進まない印象を受ける。しかし、脱出艇を失った後、惑星ラーメタルに停車しなくなっていた999号で二人を脱出させることを思いついてから、ドラマは一気に濃厚さを増していく。悪党ハードギアと対峙する女王プロメシューム。劇場版「999」でお馴染みのあの姿になる瞬間が訪れる。そしてプロメシュームが娘に告げる遺言とも言えるひと言が重い。そして空からあの汽笛が聞こえてくる。

母から託されたトランクを開けるラストシーン。「銀河鉄道999」「宇宙海賊クィーンエメラルダス」「新竹取物語1000年女王」の物語が繋がっていく。ドクターバンが封じ込められたペンダント、機械伯爵も登場。

蛇足ながら。
松本零士のこうした作品でテクノロジーの発達とそれに支配される人間の構図を散々見てきた僕ら世代は、現実世界でDXやら生成AIやらデジタル化の波に直面している。結構なことだし、合理的で便利なのは間違いない。でも、一方で失われるものがありはしないか、とつい思いを寄せてしまうのだ。ツールとして使いこなせればいいけれど、応酬の為だけに国会答弁がAIで生成されたり、芸術作品が機械によって模倣を繰り返されたり、いろんなお伺いをAIに委ねてそれに盲目的に従ったりする未来が来やしないか。そんな思いが心のどこかにある。大袈裟なのは百も承知だが、松本零士作品に触れることは、そうした未来を人間の気持ちに寄り添ったものにしていく良心回路になるのかもしれないな、と。
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