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ブレードランナー 2049のマクガフィンのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
3.5
前作『ブレードランナー』から30年後の2049年を舞台に、ブレードランナーである主人公のKが新たな世界危機を解決するために巨大な陰謀に巻き込まれるSFヒューマンドラマ映画。

壮大で圧倒的な近未来世界な映像美をバックに神妙な音楽が醸し出す世界観が前作よりアップデートされて圧巻。CGでは表現できないセット独特な空気感が作品の重厚さとマッチしている。

哲学的な要素は更に強くなり、人間とは何か?人間らしさとは何か?なぜ生まれてきて、何のために生きるのか?などの原点回帰や、環境破壊や貧富格差の問題、生や死、善や悪の価値観に一石を投じる深遠な問題提起は、文明が発達しても人間の本質は簡単には変わらないのことで歴史は繰り返す強烈な警鐘に。

また、人造人間やAIに人間の身体と感情が持ち持ち合わされた場合の、人間との差異や人間性の模索という普遍的なテーマをより深く掘り下げていくことは、現在の人工知能の能力の一部が人間を凌駕する身近な問題として捉えられる。
前作が未来世界に対する警鐘で、今作は現在の警鐘なのが巧みで面白い。

KのAIに安らぎを求めたり、自らの意志によって行動したりし、アイデンティティの模索などは、内面が現代人のように表現されおり、もはや無感情のマシンではない。
独自の発展を遂げていることにエモーショナルな部分が深く掘り下げられていて、それらの重厚なテーマと物語構造の巧みさに、これまでの驚愕の出来事が追加され、Kの物語と前作のデッカード&レイチェルの物語が繋がっていくドラマ的展開は興味深く描かれる。

しかし、肝心のレプリカントの新たな創造主となる科学者ウォレスの巨大な陰謀の新たな謎はそのままで、創造主の哲学や思想は解決しない。神の領域に達したがっている野心の方が気になっており、ウォレスはレプリカントだと思っていたのだが・・・。
前作の謎が増幅することと、新たな謎を作って解決しないことにもどかしさを感じ、謎は謎のままにするスタンスは前作や原作に対するリスペクトが悪い方向に出た結果に。

2049年までの経過がわかっていく描写は素晴らしいが、これらの事と向き合わないことで、それ以降の問題は広がらなくスケールの大きさに負けてしまい、Kの範疇の中へ沈没してしまうような物語になってしまったのが残念。163分は飽きはこなかったが長い。

これがそれぞれに異なるテーマがある3部作の2作目のようなシリーズ続編の一つとしては良いが、作品単体としては致命的で傑作にはなりえなかった所以で惜しまれる。映画終了とエンドロールの一瞬の間に「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の『to be continued』が脳裏をよぎった。

今年一番期待していた作品なので評価は厳しくなったが、哲学的なテーマは好奇心を大いに満たし、監督のセンス有り余る独特な世界観の構築は今作も秀逸。