えいがドゥロヴァウ

ブレードランナー 2049のえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
3.8
アンドロイドが人間に対する憧れを持っている、という前提が覆される時代は
一体いつになったら到来するのか?

本作のレプリカントは前作におけるレプリカントの最大の制約だったソニータイマー的(?笑)寿命から解放された存在
謂わばレプリカントがその完全性を獲得し、人間に隷従する必要がなくなった世界で焦点となるのは
あえて原作タイトルに準えれば
それでも尚、なぜ「アンドロイドは人間になる夢を見るか?」ということ
それはある種、完全性を獲得した存在が不完全性を求める"心"の働きであり
(その"心"を獲得しえたという事実こそが驚異であるにせよ)
生態系や遺伝子の系譜という進化の歴史から見れば
"完成されたもの"が如何に歪で摂理に反した存在であるかということが
逆説的に説明できるのが所以しているように思えてなりません
"完成"とはすなわち終着点であって
その先の可能性を望むことのできない存在なのです
単一的な種の完成とは、エコシステムからの断絶、すなわち未来との断絶を意味します
不老不死が如何に不毛であるか、という言説もこういった論理に準拠します
交配(=セックス)と、その因果としての子孫の誕生という生物の根源的な営みから逸脱した存在として
本作のレプリカントは位置付けられています
だからこそ
ライアン・ゴズリング演じるレプリカントであるKは
あれほどまでに孤独で
存在意義を渇望せずにいられない存在なのかもしれません
その記憶すらもが捏造されていることを自覚している存在が
何を依り代にして世界と対峙しえるのでしょう?
彼が導き出した答えにすら虚しさを感じてしまったのは自分だけでしょうか?

本作におけるレプリカントのアイデンティティーの所在
寿命だとかメンテナンスだとかの創造主の絶対必要的な束縛から解放された彼らが
尚も創造主を崇拝する理由とは
擬似的な(そして実際的な)"親"と"子"の関係に彼らがアイデンティティーを見出しているからに他なりません
その反面でやはり創造主に依拠する生殺与奪の権利
生命を弄ぶ"神"の戯れ
その残酷さ
その悲哀
本作の成功は、そういった境遇にあるレプリカントに対して観客の同情心を誘えたかどうかにすべてが懸かっているように思えました