湯呑

ありがとう、トニ・エルドマンの湯呑のレビュー・感想・評価

4.6
意外に分かりにくい映画なんだな、というのが正直な感想。予告編を見る限りでは、仕事に忙殺され人間らしさを失っている娘に、父親が度を越したユーモアを使って本当に大切な事を教えていく、みたいな話だと思っていたが、そんな説教くさい映画ではなかった。本作で描かれているのは、価値観の異なる父親と娘の、迷いと苦しみの道程である。父親は、娘に絶対的に正しい事を教え諭す立場にはない。彼はどこにいても身の置き所の無い異物感と空気のよめない冗談を引きずりながら、時には娘以上に悩み苦しむ。しかし、彼のこの空気のよめなさが、逆に空気をよみ過ぎてしまう娘に、何らかのヒントをもたらしていく。彼女が真に自分を解放する、2つのパーティ場面(イースターと親睦会)。ここで優秀な娘がとった行動は、もはや父親の思惑を超えてしまっている。100点以上の答案を出してしまっている。その事に戸惑う父親と娘の間にある微妙な距離感をラストまで保ち続けた点に、作り手の誠実さを感じた。ちなみに、後半パーティ場面の爆笑必至の展開は、「ダウンタウンのごっつええ感じ」の傑作コント「ブスっ娘倶楽部」に匹敵すると思う。
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