小石川

パーソナル・ショッパーの小石川のネタバレレビュー・内容・結末

パーソナル・ショッパー(2016年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

兄を失った悲しみから立ち直れないもやもや、無条件で注目される著名人の裏で活躍する自分に対する評価への不当から序盤の主人公はとても不安定で全てが不穏で恐怖的に見える。霊的なものが真に迫るちらつき方をしている。
中盤からもう一人の自分かのように見透かしてくる謎の人物のメッセージに、兄を感じると同時に今まで不快だった「兄の存在感」が次第にポジティブに変わり始めて、結果そのメッセージに後押しをされ、自己実現として雇い主からの禁止事項を破って自慰に耽るほど満たされる。現実に戻り始める。
終盤前半に事件が起きて一気に兄を忘れる。恋人のことを思い出し、真剣な助けを求める。ちらついていた霊的なもの、恐怖感の頂点は人間によるものだったことも明らかにされ、さまざまな不安定部分が明らかにされて定まる。その最中、何も見えないのに「何かが通ったかのような」シーンの挿入がある。兄はやはり存在するという非現実が息を吹き返す。
終盤ラスト、事件の収束による仕事からくる負の感情との決別と現状の安定と「兄の存在感」に苛まれるもう一人の存在によってある種の冷静さを取り戻す。恋人に会いにいくという前半にはなかった安定した現実を進む中で、ようやく冷静に兄の存在へ対峙する。序盤は向こうの一方的な発信で、中盤はメッセージで、終盤は存在感の認知でしかできていなかった互いの確認が初めて対話として現実世界でなされる。
何を存在と取り、何を不在と取り、何を対話と取るか。人間を非現実から現実へ引き戻すのは強烈な負の感情との決別とそれに伴う冷静さ。
小石川

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