ゆうや

午後8時の訪問者のゆうやのネタバレレビュー・内容・結末

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

診療時間もとうに過ぎた午後8時。小さな診療所で代診をしているジェニーは、研修医を窘めている最中に鳴ったドアフォンに応じなかったが、その翌日、ドアフォンを鳴らした少女は遺体で発見された。自責の念から内定していた転職を断り、診療所勤務を続けながら、少女の身元探しを始めるジェニーの「医師としての日常」を淡々と静かに描きながら、少しずつ事件の真相に近づいていく。

ジェニーは、ビジネスライクな冷たい医師かといえば、決してそんなことはなく、十分に仕事熱心で患者想いであることは冒頭から描かれる。それでもジェニーがドアフォンを無視したのは、時間外だったからではなく、研修医を窘めている最中だったからであり、もっと言えば『患者に寄り添い過ぎて、冷静になれなくなっている』という内容でさえなければ、扉を開けていたのではないだろうか。

だからこそ、ジェニーは後悔し、ひと目で移民の娼婦とわかる少女のことを思い、そんな彼女の帰りを待っている人がいるかもしれないと、自分のキャリアより少女の身元調べを優先する。その決断と行動は行き過ぎで、馬鹿げているように見えるかもしれない。しかし、それは人間らしくあるための大切な決断であり、ささやかだが踏み出すのには大きな勇気が必要な一歩だ。

ダルデンヌ兄弟には、そういう決断をクライマックスにした作品が多いが、今作ではその決断の先を描いている。警察から少女の身元を教えてもらい、事件の真相も判明したが、ラストでジェニーは意外な人物からの告白を聞く。それは、大切な決断をした彼女だからこそ導き出せた真実であり、そこから生まれた優しさこそが、彼女が本当に求めていたものだったのではないだろうか。
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