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午後8時の訪問者のnaoのレビュー・感想・評価

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
3.3

自分がドアを開けなかったことで女性が亡くなったのかもしれない。

主人公は、その女性の死の真相を異常な程に探り始める。

なぜそこまでして真相を探るのかと思ってしまうほど主人公は、事件に介入していきます。

しかも途中、脅されたり、暴力を振るわれそうになったり、拒絶されたりと色々虐げられるにもかかわらず、主人公は事件の真相を追い続けます。

あの時自分がああしてればという後悔や罪悪感を埋めるには、忘れるか、行動して満たすしかありません。そのため主人公は、正義感からではなく、自分がドアを開けなかった罪悪感から逃れようとして事件の真相を見つけようとしたんだと思います。

主人公は非常に自己中心的で自己顕示欲が強い人間だと思います。それを表しているのが、研修医との関わりです。

主人公は、高圧的な態度で、研修医の欠点を指摘します。これは後に主人公が、自分の方が上の存在だと示したかったと言っています。

その後、彼が突然医者を辞め実家へ帰ってしまいます。主人公は、ものすごく心配し、彼のアパートへ出向いたり、実家にまで足を運び気遣ったりします。
普通ここまで執拗にはなりません。

主人公にとって研修医の上にいる自分は、医者として理想の姿であり、彼が研修医を辞めるということは自分より下の人間が居なくなるということ、それを失うことが怖いから、彼を執拗に追いかけたという見方もできるのではないでしょうか。

主人公が、中盤に下した病院で仕事が出来るのに診療所を継ぐという決断は、医師としての自己顕示だけではなく、純粋に患者に寄り添っていたいという思いもあったんだと思います。

この物語は、一人の女医の心情を描いた物語だけではなく、劇中で病院に来た移民の男性や亡くなった被害者の名前が遺族と警察で違う様に、移民の人々の生きずらさや差別など、今のヨーロッパの移民問題の実情も描いた作品だったと思います。

監督ダルデンヌ兄弟の作品は、社会問題の取り入れ方が本当にうまい!
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