Shelby

わたしは、ダニエル・ブレイクのShelbyのレビュー・感想・評価

4.0
シビアな現実。それも珍しい話ではない。国の社会保障から零れ落ちてしまったあるひとりの老人とシングルマザー家族の話。

ダニエルブレイクは心臓病で、大工の仕事もドクターストップが掛かってしまい仕事が出来ない。気持ちは今すぐにでも復帰したいのに、だ。
そんな中、社会保障を受けようと役所を訪れるも役所の人間達は型に嵌ったことしか言わない。
シングルマザーのケイティと子供たちが困っているところを見兼ねて助け舟を出すもダニエルも一緒に役所から追い出される。
これを機にこの家族たちと距離を縮めていく。

やめてくれ。こんなどん底見せないで。
これが最初の感想。ダニエルは犯罪者でもない。長年税金を収めてきた善良なる一市民。
にも関わらず、こんなに冷たく突き放されるのはどうしてなのか、理不尽極まりない。
でもね、私も社会人として学んだことがある。
役所の人々が冷酷に映る一方で、この秩序を保たねばいけない役所なりの決まりがあるということ。全部が全部、救ってやれない。取り零しの人々がどこかに必ず存在する。
人が人である以上、不完全な法の前では犠牲者がどうしたって居るのだろうね。

子供たちに毎日の食事を与える中で、自分の食事はリンゴ1つ。そんなので体が持つわけでもなく、フードバンクで空腹に耐えられず目の前で缶を開け中身を啜るケイティ。
はっと我に返りごめんなさい、と何度も謝罪を繰り返す母親。そしてその姿を見つめる娘の姿。
なんて地獄絵図なのだろうか。娘にとってこの光景がショックでないわけが無い。
幼いながらも自分の家が貧しいことに気づき始めている。このシーンは苦痛でしかなかった。
見ている此方も胸が痛む。

ダニエルの葬式で、本人直筆の訴えが書いてある手紙をケイティが読み上げる。

〝わたしはダニエルブレイク。
わたしは人間だ。犬ではない。
当たり前の人としての権利を要求する。〟

彼自身の口から読み上げられることのなかった、彼の言葉だからこそ、深く重く、伸し掛る。
これは何処か遠くの国の話ではない。決して他人事で片付けてはならない事象。明日は我が身なのだということを忘れちゃならない。
前述した通り、全員が全員救われるだなんて、ハナから思っちゃいない。

でも、どうか。

どうか、ダニエルのような人達が少しでも減る世の中になりますように。

ささやかながら願わずにはいられない映画だった。
Shelby

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