<正義をつらぬけない国の息苦しさ>
カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品。(ルーマニア、ベルギー、フランス合作)
監督の前作は『汚れなき祈り』。2005年にルーマニアの修道院で起きた事件をモチーフにした映画で、非常に衝撃的な後味を残す印象的な作品だった。
そのクリスティアン・ムンジウ監督の最新作。
ルーマニア映画といえば、『私の、息子』も同じルーマニア映画。あの映画もある母親と息子の関係を通じて、今のルーマニアを写しだした作品であった。
本作『エリザのために』も同じく、父親が娘のために奔走する姿を切り取り、現在のルーマニアという社会の問題を浮き彫りにする社会派作品。
常にザワザワとした生活音が、父親の心とリンクしていて、観ている側も落ち着かない。
雰囲気は、『サンドラの週末』などのダルデンヌ兄弟作品にも似ていて、THE ヨーロッパ映画という感じ。
主役である父親以外にも、娘、妻、愛人など、複数の人間が登場するが、他の登場人物の心理状態にはフォーカスは当てられず、父親の一人芝居のように、父親の行動だけが暴走していく。
要所要所に、ルーマニアという社会の粗雑さを風刺するシーンが盛り込まれているが、実は父親自体の行動も、決して誠実とは言えない。愛人との関係での、自己中心的な行動は、若干理解に苦しむ場面も多い。
正しいこと、劣悪なこと、いろんなものが交じり合い、矛盾の中に生きていることも感じさせる絶妙な映画。ただ、ドラマ性という意味では、若干の物足りなさを感じる。