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セールスマンのmのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.8
映画史に残ると言っても過言ではないくらいの傑作「彼女が消えた浜辺」「別離」のアスガー・ファルハディ監督最新作。この人の映画は本当に完璧。
フランスで撮った前作「ある過去の行方」を経て再び母国イランに戻ってきたアスガー監督、今回は「彼女が〜」以来の容赦の無さ。ゆっくりと始まって徐々に緊張感を高めていき、生き地獄のようなクライマックスへと辿り着く。


性犯罪に巻き込まれた妻に対して、主人公は正面から向き合う事が全くできない(しない)。それどころか自身の感情の為に、彼女の望んでいない犯人探しに躍起になってしまう。
妻自身は取り調べで傷を再び抉られる事やイスラム教社会ならではの女性への厳しい目を恐れて、警察に訴える事を拒否し、なんとか日常に戻ろうとする。
静かな水面に石が投げ込まれ波紋が広がっていくのをじっと観察するように、この映画は事件を機に起こっていく登場人物達の心の軋轢のドラマを冷静に描いていく。



女性がこのような卑劣な犯罪に巻き込まれた際の女性自身と周りの男性の言動は、イスラム教が浸透したイラン社会特有のものでは決してなく、実は世界共通、今の日本にも通じる事だと思う。
未だ世界に(日本にも)残る男尊女卑の思想と、女性と向き合おうとしない男性に対して、この映画は静かにNOを突き付ける。普遍的な問題を描いた作品だった。
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