ブラックユーモアホフマン

オリ・マキの人生で最も幸せな日のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

4.4
あ、この監督の特集だったことに観た後に気づいた。『コンパートメントNo.6』の監督の前作だったのね。でアマプラで配信されてるのか。なるほど。

ふう〜2週間ぶりの映画館での映画だ。家でやることがありすぎてほとんど引きこもりみたいな生活をしていたら、なんだか家から出ること自体億劫になってしまって映画館にすら足が向かなくなってしまっていた。今日も予定に入れてたけどギリギリまで悩んだ。でもやっぱ来て良かった。
もぐらや岡野さんはパチンコすると脳汁が出るって言うけど、僕は(面白い)映画を見ると脳汁が出ることが分かった。枯れきった脳の皺に養分が滲み出てくるのを感じたわ。

タイトルとポスターから、どんな映画なのかあんまり想像できなかったというか、なんかステキな恋愛映画なのかなくらいに思ってたけど、それも間違ってもいないんだけど、基本は結構王道なボクシング映画だった。

でも最後の結末だけは独自。そこがキモだろうと思う。
途中、「ロッキーなんちゃら」って名前のボクサーの話が一瞬出て、「今はレストランをやってて結構うまいんだ」って話も含め、それってロッキー・バルボアじゃね?と思いつつ、この映画はむしろアンチ『ロッキー』的だと思う。
『ロッキー』はやるかやらないかって時にやることを選択した勇気ある男の話で、もちろん大好きなんだけど、本作はやるかやらないかって時に結局あんまやらなかった男の話で、ちょっと情けなくもあるけど嫌いになれない。

エイドリアンを死ぬまで振り回し続けたロッキーと違って、オリ・マキは夢とか成功とかよりも女との平和な暮らしを選ぶ。どちらの生き様もカッコいいと思う。

先日観たフォードの『ウィリーが凱旋するとき』の主人公ウィリーも、『ロッキー』のロッキーも、スーパースターとして囃し立てられることにやぶさかでない。古いアメリカ的な価値観なのか?オリ・マキはプレッシャーにも弱いし多分そもそも囃し立てられること自体そんなに好きじゃなさそう。彼がなんでボクサーやってるのか気になったけど、まあそういう人も当然いるだろうし、そういう生き方があって当然いい。そういう映画だった。

そうそう、数年前に『負け犬の美学』って映画もあったよな、アレ観てないけどもしかしてまさにこういう映画なんじゃない?と思ったらやっぱりFilmarksの関連映画トップに出てきた。やっぱ似てんのかな。

オリ・マキ役のヤルッコ・ラフティはドニ・ラヴァンとジャン=ルイ・トランティニャンを足して2で割ったみたいな感じで良かった。

【一番好きなシーン】
スタジアムの下見。「集中できないから静かにして欲しい」つって。