chiakihayashi

モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由のchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 ついに女性目線を徹底させた激しくもイタイ恋愛映画が女性監督によって作られた! 女たちが性に関して持ってしまいがちなコンプレックスや相手に過剰な期待をかけてしまうことなどもリアルに描かれている。

 ヒロインのトニー(エマニュエル・ベルコ)は、偶然、学生時代に憧れていたプレイボーイのジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)を見かける。弁護士として自立し、ロクデモナイ男との離婚を経ていた彼女は、大胆にも彼に近づき、ふたりは速攻で恋に落ちる。「君の子どもが欲しい」との言葉通りにトニーは妊娠し、結婚式を挙げるが、3年前に別れたはずのジョルジオの元の彼女が自殺未遂を起こす。「俺は彼女にとっては兄であり、母親なんだ」と説明していたジョルジオだったが、「もう彼女には構わない」との前言をあっさりくつがえし、彼女の面倒を見続けるとトニーに宣言する。腐れ縁というより共依存と呼ぶべき関係なのだろう。実際、後になってジョルジオはドラッグの依存症であることをトニーに告白する。

 トニーの方は共依存に陥るほど自尊心は低くはないものの、子どもの父親でもあるジョルジオとの愛の暮らしは断念し難く、何度も怒りを爆発させては泣き叫んだあげくに、ついに離婚を切り出す。が、当然、息子のふた親としての往き来と並行して、互いへの情熱と執着と葛藤は続く・・・・・・。

 監督のマイウェン(女優だった母親はアルジェリア出身)は1976年生まれで女優としてキャリアをスタート。監督のリュック・ベンソンと結婚し、製作サイドに回るも、数年で破局。女優として復帰後に監督デビュー。第3作の『パリ警視庁:未成年保護部隊』(2011)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したほか、セザール賞の作品賞、監督賞、脚本賞など13部門にノミネート。未成年への性的虐待を取り締まる部署を舞台とした群像劇である『パリ警視庁』はトニー役のエマニュエル・ベルコと共同脚本、ベルコもマイウェン自身も出演している。そして2015年、ベルコの方はカトリーヌ・ドヌーブを主演に迎えた自らの監督作『太陽のめざめ』でカンヌ国際映画祭のオープニングを飾ると同時に、本作で女優賞を受賞した。言わば才能あるふたりの女性映画人が強力なタッグを組んだ作品なのだ。

 昨年のフランス映画祭でのお披露目の際にマイウェン監督は、ベルコは最初「もっと美人の女優が演じた方がいいのでは」と抵抗したと語っていたが、どうして、化粧っ気もなしにリハビリに取り組むトニーの横顔は、とても美しい。痛みに耐えつつ、快復を自らに誓うかのような意志的な表情。抜き差しならない恋愛の天国と地獄を全身全霊で生き抜いた女性の強さに満ちた顔なのである。

 
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