蛸

LOGAN ローガンの蛸のレビュー・感想・評価

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
4.3
1人の俳優が何年にも渡って一つのキャラクターを演じることで、その時間の経過がキャラクターにある種の深みを与えることがあります。これは実写映画という「虚構と現実が交錯するメディア」のマジックの一つだと思います(リアルでの時間の流れと作中での時間の流れがリンクしているからこその面白さがあります)。
それこそイーストウッドが自身のキャリアを総括して作った『グラン・トリノ』や『許されざる者』を彷彿とさせる作品でした。

2017年現在百花繚乱の感のあるアメコミ映画としても異色の部類に入る作品だと思います(ちゃんとヒーローものの勘所は抑えられていますが)西部劇×ロードムービー。全体のトーンとしてミニシアター系の映画のような雰囲気があり、かなり渋い作品です。
それは、ローガンの車がチンピラ4人組に盗まれそうになるオープニングからも伺うことができます。
老いたローガンは彼らを止めようとするのですが逆に手痛い反撃にあってしまいます。地に伏せるローガン。そしてそこに浮かび上がる「LOGAN」というタイトル。
この映画全体のトーンが集約されている演出です。チンピラを撃退するのにも満身創痍。もはや彼は「ウルヴァリン」ではなくただのローガンなのです。過ぎ去った時の流れが残酷にも感じられる場面です。

ミュータントがほとんど絶滅してしまった この世界はほとんどディストピアのようです。
現在の「老い」や「衰退」は、過ぎ去った過去の栄光を、そしてそれがもう元には戻らないものであるということを際立たせます。
この何の希望もない世界において少女ローラは未来の象徴となります。ローガンはチャールズ(過去)の介護をし、ローラ(未来)へとバトンを渡すのです。
彼らが一緒に旅をする中盤はまさしくロードムービーです。それまで外の世界を知らなかったローラが様々な体験をしていく件はベタですが面白いです(ローラは二重の意味で「オオカミに育てられた少女」のようです)。
道中出会った黒人一家との交流の中で3人は自分たちを家族であると偽りますが、そのことが彼らの結束を高めていったように思えました。何よりローラが初めて笑うのは彼らの家で食卓を囲んでのことなのですから。

全体的に世界観の説明は最小限に抑えられており、物語は抽象的、原型的ですらあります。これは作品を、非常にぼんやりとした立ち位置のものとしています。言って仕舞えばこれまでのシリーズとの繋がりが曖昧なのです。それは欠点というよりは、むしろこの作品を「ありうる全ての世界における最後の物語」にしているのではないでしょうか。どのような道のりを辿っても最後はここに行き着く、という終着駅のような作品だということです。

非常に渋い作品ですが、アクションシーンの完成度も相当高いので、退屈することはありません。特にローラの荒々しい戦いぶりは素晴らしいです。ローガンが弱体化しているのを補うだけの凄まじさがありました。R-15だけあってバイオレンス度合いも高いです。このリアリティが物語に重みを与えているので必要な演出だったと思います。

このような作品が生まれるということはアメコミ映画が成熟したことを示しているのでしょう。それは非常に喜ばしいことだと思います。MCUではできないことをやっているという意味でとても野心的な作品です。
正直これまでのウルヴァリン主演のシリーズには不満が多かったのですがこの作品は素晴らしかったです。
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