蛸

ハクソー・リッジの蛸のレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.3
これは、戦争というとてつもなく大きな現実と戦った、信念を貫き通した男の話です。極めて個人的な映画ではありながら、個人と世界の関係性を描いているという点で神話的ですらあります。

冒頭、幼少期の主人公はレンガで兄の頭を殴り、父親によってベルトで折檻されそうになります。そしてその際に目にした宗教画が彼の人生に大きな影響与えます。彼はこの瞬間変わったのです。
数年が経ち青年になった主人公は、車の下敷きになった人の命を救うためにレンガで車を支え、ベルトによって患部を止血します。幼少期の自分にとっての暴力の象徴であったものを使って、人の命を救う主人公。彼の「転向」がこれ以上ないほどに上手く表現された場面だと思いました。
主人公の人格を描いた前半部のこうした丁寧な描写が一々素晴らしい。とてもストレートなメロドラマ的場面も、そのストレートさ故に感動的です。

人命救助というもっとも普遍的な「良いこと」に徹する主人公ですが、彼は軍隊では異常な存在として扱われます。しかし徐々に彼の信念や意思が周囲の人間にも認められていきます。この過程がベタですがおもろしろいですね。
彼の人格を描いた前半部の描写がとてつもなく丁寧なので、後半では彼の活躍が存分に描かれ、物語的カタルシスが半端じゃないです。
次から次へと負傷兵の命を救って行く主人公の行動はまさしく英雄の名に相応しいものです。
そしてこのような人物が実際に存在したという事実がそのまま人間の素晴らしさを証明していると思いました。
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