このレビューはネタバレを含みます
「ライ麦畑でつかまえて」を生み出したサリンジャーの生涯。余韻のある良作であった。
「書く」ことしかできないサリンジャーの姿と、父子・師弟・夫妻との人間模様や、そこから学び得るまでのプロセスが丁寧に描かれる。結論として、彼は書くことのみに安息を得るかのようであった。
徴兵されてから神経衰弱、酒に溺れ苦しむまでのストーリーは胸を抉るものがあった。
眠れず、フラッシュバックが起き、何も手につかず記憶もあやふやに……うつ病に苦しんだ我が身と重ねてしまい、涙が止まらなかった。
戦争で人間の権力闘争に巻き込まれたわけだが、救いもまた人によるものであった(これは世の常だが皮肉なものだと思わざるを得ない)。同じ体験をした導師に出会い、彼との対話と瞑想によって気づき、乗り越えていく。いつの時代も定型文しか述べない精神科医ってもんはろくでもないな、と苦笑しつつ。
そして最後に描かれる恩師への赦し。
寄稿した序文はボツになったが、彼に感謝を述べるため書いたのかな、とすら感じた。
怒りを握りしめると苦しい。握りしめた拳をゆるめることが手放すこと。彼は手放し、楽になったのだ。そのうえで「さよなら」と言ったのではないか。だって、もう怒りを手放したから。悟りを得たから。恩師はもう、過去の人になった。
別れた後、サリンジャーが何かを言いかけるもスッキリした笑顔を見せるのがとても印象的だった。
出版から離れ、隠遁生活を送り心の平穏のとめに書き続けたサリンジャーは幸せだったと思う。村上春樹訳の同作、買いました笑。これはもう、読むしかないだろう!
しかし洋題も邦題もなんかちがくない?サリンジャー怒るとおもうぞ👀