こけピー

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのこけピーのレビュー・感想・評価

5.0
🌟J.D.サリンジャー好きだから長いデス🌟

まぁ構えすぎてました。よく考えたら「ライ麦畑でつかまえて」の実写じゃなくて、サリンジャーの伝記だから、構えなくてもよかった。

しかし、どうだかな~。サリンジャーの伝記=「ライ麦畑…」実写版みたいな感じになるのは仕方ないのかな?🤔
小説の元ネタということであろう、いくつかのシーン、セリフなんかが差し込まれている。作中にあったが、サリンジャーの若い頃はホールデン・コールフィールドそのままだったよう。本人に限らず「ライ麦畑…」に夢中になった人は、大抵「自分はホールデンだ」ってなるだろうと思う。

映画自体はニコラス・ホルトやケヴィン・スペイシーの演技が良い。サリンジャー作品に雰囲気も合ってた。
彼の半生を掘り下げるには、時間的にちょっと性急でインパクトは控えめか。全体としては詰め込まれた感じがあり、あまり起伏がない印象。
ドキュメンタリーじゃないから当然だが、サリンジャーの晩年の隠遁生活なんて、本人以外に心持ちを知りようがないし、グラースサーガや「ナインストーリーズ」みたいな繊細な作品を詳しく説いているわけではない。
あと邦題がね‥💧

「ライ麦畑…」は青春文学の名作✒️
長生きしても半分は過ぎたであろう平凡な僕の人生で、一番影響を受けたもののひとつ。英語は読めないから翻訳だが。もちろん名訳とされる野崎孝氏の訳で📝
ちなみにサリンジャーの短編(野崎氏訳)の邦題《愛らしき口もと目は緑》って、めっちゃ良いと思う(言いたいw

15,16のときに、いろいろあって半引きこもりだった僕は、ある日の昼下がり、本棚にあった「ライ麦畑…」を手に取り、何気なく読み始めてすぐに没頭した🧐
2日かからず読み終えて、人生が変わった。引きこもることも半端にしかできない僕に、ホールデンは多大な共感と勇気を与えてくれた。
何せホールデンときたら、煙草なんか吸って斜に構えてるけど、痩せっぽちで意気地なしでケンカは弱い。そのくせ世間から弾き出されそうな人を心配し、上手く立ち回れそうな人を揶揄、批判する。"インチキ"、"低能"って言って。サイコーじゃないか。僕の思うことを、殆ど全部言ってくれてるようなもんだった。

人生観が変わるような経験で例えに出るのが、富士山登頂、フルマラソン完走、バンジージャンプとか。ひとつは試したけど、なんも変わらなかった。対して「ライ麦畑…」は、部屋にいても一日で何かが変わる作品だった。こんな経験は人生でそうあるもんじゃない。
魅力はたくさんあって、普遍的で素晴らしい。ホールデンの危うさ。人を動かすエネルギー。一見シンプルで真似できそうだけど、唯一無二の一人称の語り口調(翻訳の力が大きい)。
作中ほとんど じっとしていないホールデンからは、弱くても外へ出ていく勇気や、見てくれとか腕力じゃない、本当の反骨精神を感じた❤‍🔥

サリンジャーの作品は、煙草とお酒の使い方がすごく魅力的で素敵だ🚬 登場人物は、煙草の灰を払いながら粋な会話を交わし、お酒を飲みながら静かに泣いて思いを伝えてくる🍸
どの登場人物も、普通の人生の壁や岐路に立って弱さを見せたり、後悔や弱音を口にする。ある類の人たちの、器用にできない様に光を当て、一瞬煌めかせる✨ その煌めきは、同じように不器用な多くの読者の心に長く残る💭

「ライ麦畑…」から何年も経ち、「フラニーとゾーイー」を読んだ。するとホールデンのような不安定さ際立つフラニーが気になりながらも、ホールデンのようでもいて、もっと凛とした強さを持つゾーイーにとても惹き込まれた。
この作品の「ゾーイー」部分は特に秀逸で、彼は人生にへたばりかけている妹 フラニーへ「もっと柔軟に対処しろ」「うまく立ち回れ」と雄弁に叱咤激励する。それは短編「バナナフィッシュにうってつけの日」「コネティカットのとことこおじさん」のようなアンニュイな空気、哀愁とは異なる、エスプリと躍動感を感じるものだった。
この会話劇を読むにつけ、ゾーイーの中に成長したホールデンの姿を見て、それに共感する自分に気づいた。振り返ると、それなりに僕も大人になっていた。

そりゃあこの先、ずっとホールデンみたいには振る舞えないよ。世の中と折り合ったり、妥協したり、口を噤んだり、カッコばかりで八方美人でも悪くないじゃないか。それをホールデンは"インチキ"って言うかもしれないけど。

サリンジャー作品への200%のリスペクトをもって★5つです(ほぼ映画の感想じゃない😅
こけピー

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