マクガフィン

鋼の錬金術師のマクガフィンのレビュー・感想・評価

鋼の錬金術師(2017年製作の映画)
3.0
亡き母をよみがえらせようと錬金術のタブーを犯したことから体の一部を失い、やがて錬金術師となったエドが弟・アルと一緒に失ったものを取り戻す旅を繰り広げる物語。原作未読。アニメ未見。

冒頭の少年時代の子役と母親や広場での市民の演技や演出が残念なこと。体の一部を失った理由が暫く明かされなかったことなどが作品に対する違和感が集中力の欠如に繋がる。冒頭で作品にのめり込めない結果はファンタジー映画では致命的に。

人間キャラが薄いが、松雪泰子の妖艶な悪役キャラは、アクション以外は「マイティ・ソー バトルロイヤル」のケイト・ブランシェットを圧倒する美しい存在感に驚愕。

邦画レベル的にはアクションや造形のCGはなかなか良く、映画的な映像演出は見応えがある和製ファンタジーアクションに。人間と動物を合成したキメラの造形は瞬時にシーンを把握する映画ならではの演出にゾッとする。

兄弟の冒険譚の中に過去を取り戻す設定や、得ることへの犠牲や取り戻すことへの等価交換の対価が必要なこと。また、人造人間の自己のアイデンティティの葛藤、造作したことの悔恨や責任などを決して上手く描写できていないが、流石ヒット漫画と唸らせる原作の凄さが垣間見れる。
また、動物・人体実験や殺害などで死生観などの倫理を描写し、兄弟の対比や人間と人造人間の対比に人間の定義の哲学を託される設定は好みで、知的好奇心が大いに満たされる。

評価が低いのは「あしたのジョー」や「ピンポン」と全く同じ理由で、曽利監督の原作に対する愛情や把握能力の希薄と原作の要素を詰め込み過ぎなこと。また、ディテールの表現・造形・美術の失敗。更にハイライト的でシーンの繋ぎが甘く躍進力がない編集だろう。加えて今作品は演技力に問題がある。

悪役3人組の創造主は登場しなく、創造した理由とそれに伴う野望が知りたかった。単純な勧善懲悪ではないのに、悪役達が戦う大義がはっきりしないので殺人や戦闘の意味がわからないく感情の拠り所が宙ぶらりんに。母親の件も宙ぶらりんで脚本不足に。

前・後編の2部作にしなかったことは評価したい。続編をほのめかす終わり方だが、ただでさえキャラが弱いのに松雪泰子がいない次作が心配だが、それでも世界観に充分のめり込んだので鑑賞するだろう。
監督は交代した方が良いが無理かな。