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ベロニカとの記憶のodyssのレビュー・感想・評価

ベロニカとの記憶(2017年製作の映画)
2.5
【なぜこの映画は分かりにくいのか】

分かりにくい映画でした。
一見すると、ラストのあたりで障害者に付きそう保護司の言葉、およびその後主人公が説明的に娘に語る言葉で謎解きは終わったかに見えるのですが、そこで問題が解決するわけではないからです。(この映画のテーマは、主人公の記憶違いなどではなく、ベロニカをめぐる家族関係だと私は思います。)

この映画のポイントは、老いた主人公が過去を回想して、かつて付き合っていたベロニカという若い女性と自分の関係の真実はどこにあるのかを突き止めていくところにあります。むかし、主人公を裏切って主人公の友人エイドリアンと付き合い始めたベロニカ。主人公は、その時に悪口雑言を書き連ねた手紙をエイドリアンに送る。

そして長い時間をへて、老いた主人公は、エイドリアンそっくりの青年と老いたベロニカが一緒にいるのを見て、そして青年がエイリアンという名であることを知って、てっきり青年が友人エイドリアンとベロニカの間に生まれた子供であると思い込むのですが、実は・・・

「実は」どうであったかは、なるほど、分かるようになっています。でも、それって言葉だけの解決なんですよね。

じゃあ、ベロニカはこのことをどう思っているのか、友人エイドリアンはどういう経緯で自分の子供をベロニカとの間にではなく、・・・との間に作る羽目になったのか――その辺が全然見えてきません。いや、・・・は、かつて若い主人公にもモーションをかけているから、まあ分かるんですけど。

つまり、この映画でいちばんのポイントになる人物は、主人公でもなければベロニカでもなく、むろんエイドリアンでもなくて、・・・でしょう。ところがこの肝心要の人物が、この映画ではろくに描写されていないんです。

老いたベロニカの態度も不可解。彼女が日記を焼き捨てたのは、単にエイドリアン一世(?)のプライヴァシーの保護のためではないでしょう。自分と・・・との関係、および母・・・とエイドリアンとの関係が他人の目にさらされるのが嫌だからだろうと思う。ところが・・・はエイドリアン一世の日記を主人公に遺言で残しているんですよね。それは、知られたいという欲求でしょう。

私は、知られたいという欲望と、知られたくないという欲望は、立場としては同等だと思います。

また、そこから見えてくるのは、親と子の葛藤じゃないのかな。ところがこの映画ではその辺を突き詰めない、どころか全然触れていない。単に主人公が無神経男だから、というので片付けてしまう。でも、ベロニカが・・・との関係でどんなに苦しんだにせよ、主人公に分からなかったのは仕方がないことだと私は思う。むしろ、説明もせずに(本当に、この映画での彼女は説明をまったくしない人なんですよね)かつての恋人に軽蔑の表情を浮かべるベロニカのほうが身勝手に見えます。

というわけで、一見すると問題解決のようではありますけど、実際はわけが分からない映画じゃないかと思いました。
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