カラン

潜水艦クルスクの生存者たちのカランのレビュー・感想・評価

4.5
☆豪華ヨーロッパキャスト

マティアス・スーナルツ、
レア・セドゥ、
コリン・ファース、、、

マックス・フォン・シドー!

マグナス・ミラン(『アナザーラウンド』)もいるよ。

監督は、トリアーとのドグマは既に卒業されたご様子で、安心のデンマーク映画界代表、トマス・ヴィンターベア。

皆んな大好きのリュック・ベッソン(『レオン』とか『トランスポーター』シリーズ)が、製作総指揮をつとめ、脚本にも手を入れてるみたいだよ!


☆外れなしの潜水艦映画を大規模予算で

だいたい何を観ても面白い潜水艦ものを、約4,000万ドルの製作費で。しかも2000年に起こったロシア海軍の原子力潜水艦沈没事故という実話ベースである。


☆結果は、、、

全世界のチケット売上は、680万ドル。弩級の大赤字。たぶんヴィンターベアはこの映画の結果を受けて、相当に酒を飲みたくなったのに違いない。そして『アナザーラウンド』(2020)でアカデミー賞を獲ったのに違いない。(^^)


☆いったいなぜに、、、

かかった製作費の6分の1しか売れなかったのは、なぜか?

たぶん観ていないのである、この映画を。皆んな、潜水艦だー、大作だー、レア・セドゥーだー、リュック・ベッソンだーってなったのであろうし、そういう観客の100分の1も、たぶんトマス・ヴィンターベアの映画が好きだという人はいないのだろうから、つまらなくて仕方ない。まあそんなのは概念的映画鑑賞の末路だね。

しかしである。ヴィンターベアの見せ場はしっかりとやってくる。ラスト10分だ。水中でゴーストを出現させ、火花が炸裂して黄金色に燃え上がる水の上と、ゴーストが訪れる青い闇が支配する水の下を、原子力潜水艦の内部に見事に作り上げた!水から顔をだすと、全員がゴーストとして繋がるように、手カメラを揺らし始めたぞ!水の下もゴースト。水の上もゴースト。だいたいがソロなんだけどね、超越って。ヴィンターベアは幽霊の集団的饗宴もいっちゃうよ。集団的超越ってゾンビ系はけっこうあるかも。

そして、映画の最後。ルクセンブルクの正教会なのだろうか、お葬式の場にあらわれたソロのゴーストは、ラブレターを読み上げる妻にではなくて、ロシア海軍大将、つまり潜水艦乗り組員たちを死に至らしめた敵の顔に、明るい海辺の教会で、海の底の闇から到来するのである!

このような海の底からのゴーストの、マックス・フォンシドーの顔面への出来(しゅったい)こそが、ヴィンターベアを招聘した意義である。そういうことをちゃんと観てもらえるセッティングをこの映画の製作チームが十分に行ったとは思えない。だから誰も気づかないし、映画はさっぱりかんかん相手にされない。あーらら、可哀想に。俳優たちも、映画的な表現をするのが苦しかった状況であろうが、とても良かった。


☆幽霊とは握手しません?

お葬式の場で海軍大将の握手を、息子くんは拒む。ライナー・サルネの『ノベンバー』(2017)の水中に棲むショットみたように、潜水艦内にゴーストとして出現したのは、その息子くんであったのをあなたは覚えているか?闇の水中で握手のように手を伸ばしかけてカットになり、今や明るい地上で反復されようとしている、この荘厳な編集を、つまんなーいとか言っちゃってるあなたは、感じられていないだけなのでは?それで、この息子くんは、明るい地上に上がってきたゴーストをぎっと睨むし、握手を拒む。恨んでるからねー。マックス・フォン・シドーの顔めっちゃ怖いし。目に赤い血のライン入れてる。(^^) 握手拒否。つまりだ、ロシア海軍への和解の余地はこの映画にはないのである。

この映画はロバート・ムーアの『A Time to Die』を原作としており、主にフランス系の資本が働いているようだ。ベルギーの俳優であるマティアス・スーナルツが主演で、レア・セドゥーはフランス人。彼らはフランス語話者。他に、ドイツやスウェーデン、デンマーク、そしてイギリスの役者たち。原作が英語だからなのか、英語のセリフだけ。ロシアの潜水艦内でも。マティアス・スーナルツは新しいドルフ・ラングレンっていうわけかい。いや、アーノルド・シュワルツェネッガーなのか?いやいや、ハリソン・フォード&リーアーム・ニーソンだな。まったくいい加減にしろ。いつまでやってんだ。潜水艦の中はどこを映しても実質的にクローズドフレームだから、まだ映画空間の固有性は確保されてるけど、おかしいんだよ、英米の協力を得たくないロシア軍が英語を話しているのは。ふとしたところで緊張感を削がれる。

ところで、本作の製作にあたり、もともとロシアの地でロケ撮影をするべく協力の約束を得ていたのだという。それが反故になった。

この映画の描いている通りならば、ロシア軍の隠蔽体質は最悪であるし、死に至る病とはこのことである。それは皆が知っている通りだ。

息子くんは、握手をするべきであったのか?否。やはり、お葬式にやってきたとはいえ、ロシア海軍大将の爺さんとは、握手すべきでなかったのか?恨んでいるから?現実の遺族の心情を代弁してる?

このような本作の姿勢と、映画撮影に際してのロシア側の非協力的な姿勢の、どちらが先であったのかは分からない。ロシアが非協力的だから握手しないのか、握手しないから非協力的なのか?この握手の拒否をヴィンターベアはどう考えていたのだろう。たんに原作通りであるのか?リュック・ベッソン等の製作陣が決めたことなのか?何度も言うが、ロシア軍が最悪なのは誰でも知っているだろう。なぜ握手しないのか?これは何の踏み絵なのだ?水中での親子の握手がカットされたことの、現実的な反復なのか?

不可能な握手でさらに超越ぶちかましていたら、☆5つにしてたところだ、残念!




レンタルDVD。GEOね。月末の準新作が100円になる日に借りました。(^^) 画質は普通。音質も普通。SEは大したことない。ゴアもない。良いじゃん、ゴーストがいっぱい出るよ!
カラン

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