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RAW〜少女のめざめ〜のnetfilmsのレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
3.9
 ロング・ショットで据えられた路上の光景、不気味な静けさをたたえながら、等間隔に置かれた木々の中で、突如死角から飛び出した人影にドライバーはハンドル操作を誤る。車はコントロール不能のまま、木に激突する。16歳のジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)は厳格な家庭に育てられた次女で、肉アレルギーのベジタリアンだった。彼女は両親に従い、姉と同じ全寮制の獣医科大学に入学する。初めて親元を離れ、新しい環境での暮らしに不安で一杯になる少女の姿。両親に車で寮まで送ってもらうが、寮にいるはずの姉アレックスに電話をかけるもつながらない。仕方なく一人で寮に閉じこもる少女の前に、突如不気味なサイレンが鳴り響く。部屋をこじ開けたのはアドリアン(ラバ・ナイト・ウフェラ )という男。「俺はゲイだから」と言いながら、彼女の手を引っ張り混沌とした空間へ招き入れる。阿鼻叫喚の地獄絵図の中、上級生による新入生歓迎の手荒なしごきは突然始まる。強烈な臭気に鼻をやられながら、一晩中先輩たちに連れ回された少女は、いきなり獣医学大学に入学した感慨に浸ることになる。そしてようやく姉のアレクシア(エラ・ルンプフ)と再会する。

 16歳のジュスティーヌの少女から大人へのイニシエーションの主題を纏った物語は、ボーイ・ミーツ・ガールな淡い物語が繰り広げられるのかと高を括っていたのだが、中盤以降の展開はまったく趣を異にする。ストレートな先輩との淡い恋愛など微塵もないままに、処女でベジタリアンの少女は、うさぎの生の腎臓とテキーラ・ショットに思わず翻筋斗打って崩れ落ちる。だがその禁断の業が彼女の中で何かを芽生えさせる。冒頭の誰かの突発的な死、手荒な新入生歓迎パーティで首吊りされる犬のゆらゆらとした嫌な揺れ方、釣り上げられた馬が見せる奇妙な予兆。学食でハンバーグをこっそり腰ポケットに忍ばせる少女の病巣は、親にベジタリアンだと洗脳され続けた彼女のリミッターを外す。ブラジリアン・ワックスに戯れる姉妹の病巣、姉の将来に致命的な一太刀を負わせた少女は深刻なコンプレックス、位相を変える衝撃の展開。愛犬クイックの安楽死の現場を描かず、解剖した犬の脇腹、ゲイ友達のサッカーの華麗な足技を見る彼女の鼻血、青のペンキまみれになった少女は男の突然の誘惑に残酷な「NO」を突き付ける。フランスの新鋭ジュリア・デュクルノーの演出は少女を残酷な悪魔に変える。肉をえぐるたびに、心は満たされて行く。
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