日本映画のタブーに切り込む
期待。
良い意味でも悪い意味でも裏切る事ができるもの。
何だかんだ言ってそれって、
こちらのスタンスに依存しているんだと思います。
あまり、多くを望まなければ案外映画ってのは良作だったりする。
飽食な時代だからこそ、むしろ映画そのものに向き合うことが大事なのかもしれません。
人を喰らって生きる喰種の世界へと突如投げ込まれた"人間"の苦悩と目覚めを描いた意欲作。
超人気作である石田スイのデビュー作を、このところのコミック実写化の波にうまいこと乗せてみて完成した今作は、思いの外、日本映画界で新たな立ち位置を得た感がありました。
正直、実写化に際して全く期待をしていませんでした。
それは、コミック原作ものの宿命なんですよね。
実写化に対し僕らは、そんなもの認めないと頭から拒否してしまうか、
どうせ大したもの何て出来やしないんだって厭世気味な反応を取るかのどちらかじゃないでしょうか。
今回に関して言えば後者の方でした。
おそらく、原作にそこまで激しい思い入れがなかったからこそ、かえってそれがよかったんだろうなと思います。
そんな程度の期待を胸にすれば、
悪くない、いや、むしろ何だか新しい。
今までの日本映画にはない独特の質感。
見て損はありません。
まず、窪田正孝演じる金木くんは鬼気迫るものがあって、見ているのが辛くなるレベル。
そう思わせてしまう演技はもはや演技ですらないんじゃないかと言ってしまいたいくらい、不思議なリアリティーを放っています。
窪田くん目当てで劇場に足を運んでしまうと、一泡も二泡も吹いてしまったんじゃないかなと思います。
更に、真戸を演じた大泉洋。
ここまでコミック感満載な役をいとも平然と演じてしまう。
役者としての類いまれな才能を感じてしまいます。
ただ、
この映画って実は女優に支えられているんだと思います。
まずリゼを演じた蒼井優。
とにかく不気味でしょうがない。
血だらけの顔を微笑みながらベロり。
なかなか、出来ない演技じゃないのかな。
蒼井優ってひとは、
キャラクターが持つ振幅にうまく共鳴して、それをとことん増幅させることで演技を引き出す俳優さんなんだなと感じました。
彼女の悪女っぷりは是非とももっと見てみたいものです。
そして何よりも。
トーカ役の清水富美加。
今年、色々と物議を醸した彼女ですが、演技力の実力は正真正銘の折り紙付き。
気難しげなトーカちゃんが金木君をいたぶる様子が、正に原作そのものでした。
嫌々やっていた役とは到底思えない演技力は正にプロがなせる技なんでしょうね。
友達が作った肉じゃがを食べるシーンが僕の中での名シーン。
その流れからの金木くんとのやりとりが微笑ましくてたまりません。
こんなように、この映画の最大の見処って演技なんです。
正直、アクションの質も、CGの見せ方も、映画のリズム感も、決して褒められたもんじゃない。
もっと頑張れと言いたいレベル。
でも、俳優達の渾身の演技だったり、日本映画で描いた事が無さそうな食人というテーマだったりが、
ことのほか満足感をもたらす。
期待値が低かったからなおさら、
そういう、映画の本質と向き合えたんじゃないのかな。
ちまたに溢れる高品質なCG映画や現実離れしたアクション描写はあくまで表層。
人が演技するということの醍醐味を味わうことのほうが映画との健全な付き合い方。
あぁ、でもトーカちゃんの赫子のビジュアルは見とれるほど美しかった。
そうだな、表層もやはり映画には大事な要素。
日本的な美意識を具現化できる今後の技術革新に激しく期待します。
ハリウッド級は到底無理だろうから、
良い意味で裏切ってほしいな~。
続編、望みます。
うん、金木くんの拷問シーン完全再現!