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人生は狂詩曲のakrutmのレビュー・感想・評価

人生は狂詩曲(2014年製作の映画)
5.0
とても素敵でロマンティックなミュージカル映画です。アメリカのミュージカルのように騒々しくなく、フランスのミュージカルよりは落ち着いた色彩を感じさせる、どちらとも異なるミュージカルを堪能できます。『ロシュフォールの恋人たち』へのオマージュと感じられるようなシーンもあります。また、オランダ語とフランス語の両方の楽曲が用いられていて、語感が微妙に異なるので、その違いを楽しむこともできます。

ストーリーは単純ですが、それはミュージカルなので仕方ありません。ミュージカルはストーリーを楽しむというよりは、あくまでも楽曲やそれによって表現される感情を楽しむものなのです。逆に言うと、そこが楽しめないと、ミュージカル映画は退屈だと思います。

オランダ語とフランス語の使い分けは、この映画全体を通じての特徴になっています。そもそもベルギーでは、オランダ語を使うフランドル地域とフランス語を使うワロン地域に二分されていて、この映画はその2つの地域の楽団の競争がテーマになっているので、必然的に、オランダ語とフランス語の両方が使われています。この使い分けによって、例えば、主人公のエルケのユーグに対する態度や心理的距離が微妙に表現されています。ユーグとの距離を取りたいときにはオランダ語、距離が縮まる(縮める)ときにはフランス語を用いるという具合です。さらに最後のシーンで両方の楽団がフランス語で歌うシーンも、そのような心的距離を効果的に表しています。オランダ語やフランス語を知らなくても、じっくりと聞くと、音の違いでどちらの言語を話しているのかがかなり区別できますので、チャレンジしてみる価値はあります。

いずれにしても、以上のような楽しみ方ができるミュージカル映画は希少ですので、特にミュージカルが好きな人には、この映画を強くおすすめします。
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