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浮雲のkoyaのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
4.5
林芙美子原作らしい「あきらめない女」の物語。

主人公のさち子(高峰秀子)は戦争中、インドシナでであった妻帯者、富岡(森雅之)と出会って惹かれ合うものの不倫の仲。

この富岡という男を演じた森雅之が、素晴らしい。
素晴らしい行いをする、というよりそのダメさ加減が素晴らしい。

いい男の役ではないし、どうしようもない男なんだけど普通の男がやったら説得力がないところ、いい女とみればすぐに手を出すけれど、所詮甲斐性なしで、自分勝手で(都合悪くなるとなんだかんだいって逃げるし、自分の就職はさっさと決めてしまう)、それでも森雅之が演じると女の人にもててしまうのがわかる説得力があります。

なんとしてもついていく高峰秀子のきっとした目つき、只者ではないし、ただ浮気者の男と気の強い女の煮え切らない物語ではなく、男と女の仲はそんなに竹を割ったようにきっぱりしない、ということなんだと思います。

未練たらたら、嫉妬深く、別れそうで別れない、別れられない、ダメな男とわかっていても離れられない。

もともと林芙美子の小説の主人公はこういうタイプが多いのだけれども、実は今も通じる「男と女の嫌な関係」をここまで見事に描き出している大人の映画。
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