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永遠と一日のleylaのレビュー・感想・評価

永遠と一日(1998年製作の映画)
4.8
静謐でいて、深い。最後に得も言われぬ涙が流れました。オールタイムベストです。

死を目前にした詩人アレクサンドレの最後の1日。

アルバニア難民の少年との出会いと惜別、そして自身の人生の悔恨を描いている。

詩人のたった1日の出来事に社会情勢への憤りを混ぜ、こんなにも壮大で哀愁に満ちた美しい映像にしてしまうのかと、もはや尊敬しかありません。

主役のアレクサンドレを演じるのは「ベルリン天使の詩」のブルーノ・ガンツ。全身から滲み出るような哀愁と存在感が素晴らしかった。

不治の病で明日から入院するアレクサンドレは、最後に娘の家を訪れ、亡き妻アンナの手紙を読むことになる。そこには妻の思いが綴られており、彼は今まで妻や家族をいかにないがしろにしてきたのかに気づくのだった…。

映像は、亡き妻が若い頃の回想シーンになったり、彼が研究していた19世紀の偉大な詩人ソロモスが登場したり、現代と過去が自由に交錯する。
それは、彼が詩人であり“言葉で過去を連れ戻す”からにほかならない。

人身売買されそうになるアルバニア難民の少年を救うアレクサンドレ。その少年が教えてくれた「よそ者」という言葉を自己に重ねることになる。

「なぜ、一生私はよそ者なのか?」「なぜ、お互いの愛し方がわからなかったのか?」と母に話し掛けるシーン。
彼が妻や他の人々とうまく関わることができなかったことを内省する場面が切なく印象に残った。

難民の少年もまたギリシャでは「よそ者」であるがために、まるでアレクサンドレの分身のように思えた。二人は最後の数時間を共に過ごし、心を通わす。バスに乗るシークエンスは二人とも楽しそうで、ひとときの幸せを感じさせてくれる。

やがて少年が仲間たちと一緒にギリシャを離れる時が来る。少年の乗る船を見送るアレクサンドレ、ここで冒頭の海を泳ぐ少年時代のシーンが思い起こされウルッとする。

子供の人身売買の話は、監督が目にした経験談とのこと。たびたび出てきた鉄柵に張り付く人々のシーンに監督の想いと憤りを感じた。

ラストシーン。妻への問いと答えが、難民の少年が教えてくれた3つの言葉が、どちらもしみじみと胸に響く。
それは、絶望でもあり希望でもあり、考えるほどに余韻が渦巻いてしまうのでした。

長回しで見せる結婚式の行列、黄色いレインコートなど、おなじみのアンゲロプロスの演出をはじめ、1シーン1カットの映像に酔いしれた。素晴らしくて震える。
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