蛸

22年目の告白 私が殺人犯ですの蛸のレビュー・感想・評価

4.2
この映画のことを知った時に、やはり酒鬼薔薇聖斗と彼の書いた『絶歌』を巡る騒動のことを思い出しました。
最も、映画の中で犯人として名乗りを上げている曽根崎雅人(藤原竜也)は現実の元少年Aよりはるかに挑発的な人物です。彼のメディアを巻き込んだ行動は広く社会に波紋を投げかけることになります。自己演出の塊のようなわざとらしさのある曽根崎の役を、藤原竜也というある種のステレオタイプに塗れてしまった俳優が演じるというのは非常に理に適ったことだと思いました。

曽根崎の行動は(その話題性ゆえに)メディアを介して日本中に発信されます。劇中ではビデオカメラで撮影された映像や、ワイドショーやニュース番組の映像が挿入され、SNSや動画サイトにおける人々の反応が(幾分表層的なものとはいえ)描き出されます。
彼の巻き起こす騒動は日本中の注目するところとなり、それは常に傍観者を作り出します。そして、曽根崎のパフォーマンスの動向を見守る人々という点で、劇中の傍観者と劇場の観客の立場が同一化させるところがこの映画の上手いところだと思いました(そのためにリアリティのあるメディア描写は必須です)。
そのため、当事者たちが「目」を形取ったテーブルを囲う瞬間は正しく映画的なハイライトといった趣がありました。
反対に、クライマックスで真実が明らかになる瞬間には傍観者が居合わせないというところも面白かったです。

全体的にテンポも良く停滞感がないので退屈する人はほとんどいない映画だと思います。誰が見ても面白い映画だと思います。
個人的には、劇中で挿入されたビデオカメラの映像がJホラー的だったところが印象的でした(『女優霊』が96年なので、映像の質による同時代感を演出する意図があったのかもしれません)。全体的に映像によって時代感を出そうとする演出が巧みだったと思います。
『サイコ』オマージュもあったりして楽しめました。ジャンルとしてはサスペンスなんでしょうけど、ホラー映画的な雰囲気が濃厚なのが良かったです。

感情的に過ぎる登場人物には多少辟易させられましたし、最後の場面は蛇足だと思いましたが、文句なしに面白い秀作だと思います。
蛸