nene

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のneneのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

(※追記あり)

まずとにかく驚いたのはその音響効果で、音が籠り遠くなる聴覚障害を疑似体験させられる。私はノイズキャンセリングイヤホンで聞いていたこともありその没入度は相当なものだった。
劇場の無音空間でもいいかもしれないけど(アカデミー作品賞か主演男優賞獲れば公開決まったりしないかな?)、これイヤホン/ヘッドホン、できればノイズキャンセリング機能付きの方が擬似体験効果高いんじゃないだろうか。

私は実は以前、滲出性中耳炎で左耳だけ一時的に聴力を失ったことがあった。鼓膜より内側に滲出液が溜まり、殆ど聞こえなくなる。左耳だけでは、踏切で目の前を通る電車の轟音も僅かしか聞こえなかったくらい。
だから今作で再現された、振動が伝わる程度でくぐもった音が遠くに僅かしか聞こえない感覚は少しわかる。とても似ていた。
ノイキャンイヤホンで私の耳に再現されたルーベンの聴力は、喉をチョークされてるような息苦しさ、耳をぴたりと塞がれているような閉塞感さえ感じた。

映画中盤、それまでは手話も読唇もできず周囲の言うことが全くわからなかったルーベンが(それらの字幕もないのでまさにルーベンと同じ気持ちになる)、時が経ち指文字や手話を使い、仲間や子供たちと笑いながら会話している姿が映されるようになると、こちらも嬉しくなりグッときて泣きそうになった。

しかし音のない"文化“を持つ人の中で生活することになるルーベンの視点を通じて私たちが感じ取れるのは、最後まで葛藤と苦しみだ。

ルーとの再会と2人の描く未来、それぞれの選択、それらを言葉少なに描き訪れるラストシーン。
その「静寂を聴く」ルーベンは何を思うのか。
その先の結論を私たちは見ることはない。
コミュニティに戻るかもしれないし、「メタルの(ような)音」を聞かせるインプラントとともに音のある世界を新しく生きるのか。

余韻があとを引くラストだった。

リズ・アーメッドいい演技でした。
ポール・レイシーも素晴らしかった。彼は手話で歌うメタルバンドをやっているみたいです。まじもんのタトゥー入っててかっこいいですw

(追記)
記憶の限りでは劇伴らしい劇伴(明らかに「曲」の体を成しているもの)がなかったと思うんだけど、これもすごいなって。
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