ツクヨミ

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

"聞こえる"ということはどういうことか…。
メタルバンドでドラマーをしているルーベンは毎夜ライブ公演で忙しい毎日を送っていたが、急に突発性難聴になってしまう…
聴覚障がいになってしまった男の主観で描かれるドラマ作品。今作はアカデミー賞で音響賞を受賞したということで待ち焦がれた映画館鑑賞でしたが素晴らしい体験になりました。話の内容的には健常者の主人公が突発性難聴になり徐々に音が聞こえなくなっていくのを一緒に体験する感じで、耳鳴りや音が濁って聞こえる音響が凄まじくリアル。聴覚障がいの方はこんな聞こえ方をしていたのかとシンプルに感動。そして聴覚障がいの方が感じる静寂と健常者が感じる音の使い分けが素晴らしく、終盤のパーティーのルーが父親と歌を歌っているのを聞くルーベンのシーンが特に心に迫っていた…最初は健常者が感じるような普通の聞こえ方なのに、途中から徐々にルーベンが聞こえる歪んだ音に変わっていく音響変化が鳥肌レベルで震える。
そして個人的にだが今作のテーマは"聞こえるとはどういうことか"だと感じた。作中でルーベンはなんとか健常者だった時と同じくらい聞こえる耳を求めていくが、ラストで耳が聞いているのは街の環境音だったり人々の騒めきだったりと今聴こえているのは騒音だと感じたルーベンは補聴器を外し静寂を感じる。ここで分かるのは彼は騒音を聞いていたせいで見えなかった世界が静寂の中で見えたのだと感じた。つまり聞こえるということは、状況によっては他の感覚を狭めてしまい美しい景色などが見えなくなってしまうこと。そういった観点から見るとルーベンにとってのラストは音を失う"喪失"であるが他感覚を再発見する"希望"にもなるのだ。なんと美しきラストだろう。
また今作は主人公ルーベンを演じたリズ・アーメッドやルーを演じたオリヴィア・クックの葛藤の演技がすごかった。いきなり障がい者になってしまったらどうすればいいのか…考えさせられる。そして今作は自分がルーベンと同じ立場だったらどうするかとついつい考えてしまった。なってみなければわからないだろうが、いろいろ考えてみたい問題だ。
全体を通してアカデミー音響賞に恥じない素晴らしい音響編集力と心揺さぶられるドラマにがっしり心を掴まれました。音響が凄いので気になった方は是非劇場で。
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