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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~の010101010101010のレビュー・感想・評価

4.0
映画の中の人生の中で、ある、ふいに訪れる静寂の、風景の、息を呑むような美しさ。
あぁ、こういうの、タルコフスキーの映画で教えられたよ、という場面もあったが、しかしこの映画で描きたかったのは、そのもう一歩先にある、(聖タルコフスキーのようには居直ることの、諦観することのできない)、ただ一人この世界からスポッと抜け落ちてしまった者が、果てに、ふいに立ち会うことになった、静けさの、瞬間だった。

ああいった共同体、本当にあるのだろうかね。
とてもかけがえのない時間が流れている場所でもあった。
ただ、そこに居直れないことも分かる。

しかしどれほどの絶望だったろう。難聴になった時、また一念発起して再び戻った時。
彼の絶望、苦悩は、映画の中でたしかに描かれてはいたが、観ていて目も当てられなくなるほどでは、良くも悪くも、なかった。
とはいえ。いや、むしろその辺りは、観客自身が身体的な違和感、不快感として体験せざるをえないことにもなり、その場面はショックですらあった。


そしてまた、あぁ、かつて私を掬い上げてくれた、そんな人もいたな、と思い出す。私は彼女に救われ、そして彼女もまた…、だったのだろう。そんな人とも、私も、離れた。そんなことまで思い出させてくれる。幸せになってほしい。いつまでも幸せでいてほしい。私は私の人生を生きる。生きている。
正解はない。
間違いも、苦悩も、失敗もある。でもそれらがあったからこその、見える景色もまたあるのだということ。
ふいに訪れる、恩寵のような瞬間、それは実は今までも、すぐそこにあったのだということに気付かされる。

これからの彼の人生に幸あれ。
別に劇的なものでなくてもいい。
彼の見つけた静けさの美しい世界、それは決して最後に辿り着いた場所ではない。
ここから広がってゆく、彼自身でつくってゆく世界がある。
この静寂は、はじまりの光景なのだ。