水蛇

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~の水蛇のレビュー・感想・評価

4.6
失うということ、世界と自分を受け入れるということってまとめるとなんかもうあまりに手垢にまみれた感じだけど、これは難聴を扱いながら根っことしては依存症を克明に追ってて内臓にガツンときた。日常の不便の先に難聴(に限らずなんらかの機能を失うこと)の本番がある。健常者がこうやって聞こえない世界を恐ろしいほど疑似体験して震えあがってもなお入り口にすら立てない恐怖がきっとあって、それは「一度持ってたものは取り返せるはず」というオブセッションなんだと思う。主人公が闘病?はするもののエンパワメントやエイブリズム批判ともちがう方向に潜っていく珍しい名作。とはいえ少し前にとても大切な人が難聴になってしまったから、胸が張り裂けそうになって声をあげて泣いた。

わたしは聴覚過敏だからルーベンが人工内耳をとりつけた時と似た聞こえ方(聞きたい声や音を取捨選択できない)をしてるっていうことになるんだけど生まれた時からこうだからそうじゃない世界を知らないし、取り戻そうという発想にはもちろんならない。それで励まされたとかじゃないけど、そうかわたしは失ってはいないんだなと思った。生まれてきたんだなというか。
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