おそろしくはやい手刀

荒野にてのおそろしくはやい手刀のレビュー・感想・評価

荒野にて(2017年製作の映画)
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ターフを駆ける競走馬の姿は美しい。
筋肉が躍動し、滑らかな毛並みに光を反射させながら、一陣の風のようにコースを駆け抜ける。
サラブレッドは「定められたコースをより速く走る」事を、人間によって血統の中に仕組まれた生き物だ。

映画の序盤、主人公は道路脇を走る。
途中で止まってあたりを見回す。
「走る」「歩く」という基本的なアクションが雄弁に語る詩的な映画だった。

出走できなくなって殺されるかもしれない競走馬ピート。
生に翻弄される一頭の馬を主人公チャーリーは、たとえ自分の手を罪で汚そうとも救いたいと思う。
ガソリンを盗むためにホースを口で吸う。
ガソリンが口に入って吐き出す。
次のシーンになってもガソリンの味は消えずに口をゆすぐ。
口に残った不快感は、犯した罪の味かもしれない。

『Go west,young man.』とは逆へ進むチャーリー。
荒野を進む、寄る辺のない少年は、帰る事ができる居場所を求めて東へ進む。
原作序文で引用されているらしい、スタインベックの言葉を信じようとした少年の物語だった。