最近の七尾旅人の音楽は、自身の内面に迫るものではなく、ほとんどのものがここにはいない誰かに向けられている。もっぱら貧困や国籍をめぐる問題が語られているが、神の視点に立つのではなく、あくまでも個人的な体験をもとに綴られている。昨年のアルバム『Long Voyage』のフィナーレを飾る「미화（ミファ）」は実際にいた在日のファンとの記憶がモデルに作られている。個人のリアリティを感じさせ、際どい美しさを湛えた音楽を聴くと、どこか安心する気持ちになる。
音楽は時代を映す鏡なのだとしたら、今年3月から始まったアルバム再現ツアーは、再演されることがない演劇のように思える。
