MasaichiYaguchi

ちょっと今から仕事やめてくるのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
この作品を観ると、昨年大きなニュースになった大手広告会社の過労自殺事件が思い出される。
この映画で取り上げられているブラック企業というと、福祉厚生も労働組合なく、長時間労働や賃金不払い等の労働関係法令違反が常態化した中小企業や零細企業、または居酒屋を中心とした飲食店チェーンや宅配等の運送業のイメージがあるが、先に挙げた事件のように一部上場していて制度も待遇面もしっかりしているような所でもブラックな会社はある。
景気が改善されたこともあり、このところ大卒就職率は高水準で推移しているようだが、就活に苦労して何とか内定を取って入った会社がブラックだったら、この作品の青山隆のように根が真面目な人ほど追い込まれてしまうと思う。
彼をパワハラで追い詰める張本人で山上部長というのが出てくるが、あそこまで酷くないにしても、それに近い上司は何処にでもいそうな気がする。
そして、部長からのパワハラのスケープゴートにされている隆に対し、見て見ぬ振りをする同じ部署の同僚たちが更に彼を追い詰める構図も、よくあるパターンだと思う。
そんな八方塞がりの隆に救いの手を差し伸べるのが、幼馴染を名乗るヤマモトという青年。
隆にとって見覚えのないヤマモトは謎の人物だが、心を和ませる笑顔と底抜けに明るい大阪弁で暗闇を彷徨って崖っぷちにいる彼を光ある所に連れ出そうとする。
このヤマモトを演じているのが主演の福士蒼汰さんなのだが、彼の笑顔は同性のオジサンである私から見ても、思わず癒されてしまう“キラースマイル”だと思う。
このヤマモトによって隆は気を取り直して仕事に前向きになっていくのだが…
隆の闇の世界で光を求めて悪戦苦闘する姿と並行して、何の見返りも求めず隆を助けるヤマモトの“素性”が少しずつ判明していく。
そして、終盤で遂に分かるヤマモトの“正体”。
彼の“正体”、そして何故隆を助けるのかが分かった時、思わず胸に熱いものが込み上げて来る。
本作の脚本も担当した成島出監督は、20代の時に親友2人が自殺した経験があり、その時抱いた悲しみ以上の悔しさ、その思いをこの作品に込めて、作品自体がブラック企業で苦しんでいる若者たちにとって“ヤマモト”的存在になれば良いというコメントをしている。
五月病になった新入社員もいるかもしれないこの時期、この作品はあなたにとって仕事とは、生きる希望とは、人生の在り方とは、ということを考えさせてくれる。