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はらはらなのか。のこのレビュー・感想・評価

はらはらなのか。(2017年製作の映画)
3.5
「酒井さんってこんな映画も撮るんだ」というのが一番の感想です。前作『いいにおいのする映画』は、監督本人が「この映画で評価されなければ地元に帰らなければならない」ということに対しての切実な想いが映像に焼き付き、スクリーンから溢れ出ていたのだが(なにを言ってるかは、まあムーラボとかで色々調べてください)、本作にはそういったものは特に感じなかった。酒井監督は今作における様々なインタビューの中で「自分がファンタジーや物語を信じられなくなった。その迷いを経ての映画です」みたいな事を言っていて、映画の中でも監督のファンタジーに対する揺らぎ、それとどう向き合ったか、みたいなものは感じられるけど前作の異常なまでの執念はなかったように思います。でも、それは別に悪い後退したという意味ではなく、1人1人の出演者や映画との距離感、スタンスが変わったという事だと思います。


映画を観ていて、川瀬陽太さん演じるお父さんと松井玲奈さん演じるリナが特に良かったです。ぼくはどんな役であれ川瀬陽太さんが出てくるととりあえず笑ってしまうのですが、いい具合にお父さん感が出てました。そんなに出てこないんですけど確かにナノカの父であるというのが映画の端々で感じられて、ワッフルのシーンや最後の「ナノカ、お前はどうしたいんだ?」はとてもグッと来ました。松井玲奈さん、アイドル時代は名前を知ってたぐらいなんですが、とても魅力的でした。なんか、憧れのお姉さん感がすごくて(笑)子どもの視点で見るかわいらしいのに大人びたお姉さんだったなと。ちょっとドキドキしました(笑)前作に引き続きのミッチーさんも相変わらず素晴らしかったと思います。お芝居も慣れた感が出てて。あと普通にカラーで観たらすごいカッコ良い人ですね。
主役の原菜乃華さんもまあ、良かったんですけどもう少し映画の中での成長が欲しかったように思いました。意図的に菜乃華の初舞台は描かずに映画が終わり、それ自体は別にいいんですが、ナノカが物語に、ファンタジーに、亡き母に、父に、そして己に向き合った上でそれがどう自身のお芝居に昇華されるのか、それを観たかった気はします。あ、でも水橋研二さんに写真を撮られる時のあの「少女が"女"の顔をする」あの瞬間はゾクゾクしました。

映画の内容としては、亡き母が出演していた舞台の主役を射止めた女優の卵・ナノカが演技をすること、物語を信じることについて向き合っていく…みたいなことなんですが、そんな難しい風に言わなくてもミュージカルシーンもちょこちょこあって、気楽に観られるしワッフルのシーンとかグッときて、ああ、まあいい映画を観たかなという気持ちになれます。でも、ナノカと劇団の人との関係性、凜との関係性、両親との関係性など全体的に描き込みが弱かった気がします。酒井さんが伝えたいこと、それが先行としてあってそれを伝えるための登場人物然り物語になっているような気がしなくもなかったです。
というか、前作然り酒井さんは「ファンタジーが大好き、魔法が大好きで信じている」という前提ありきで観てしまうので、物語そのものに没入できないという側面もあるなと感じました。酒井さんがファンタジー大好きであるという前提を知っていようが知っていまいがその物語を魅了させるだけの何かが、足りないような気がしました。酒井さんの存在=酒井さんの映画、というか。もちろんイコールじゃないんですけど・・・

ただ、映像や美術の美しさ、女の子を可愛く撮る力量、「嘘を描くということ、物語を語るということ」ということに真摯な酒井監督のことは尊敬していますし、もっと彼女が生み出すファンタジーを観たい、信じたいと思わせられる何かを持っているのは確かだと思うので、これからも観続けたいと思います。

【鑑賞2回目】
2017.12.3 松本CINEMAセレクトによる爆音映画祭in松本での上映。松井玲奈さん、酒井麻衣監督によるアフタートーク付き。

半年ぶりぐらいに観てみると、前回より思ったより素直に映画を楽しめたような気がした。普通によく出来たええ話やと思った。
こ