JohnIX2426

新感染 ファイナル・エクスプレスのJohnIX2426のレビュー・感想・評価

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最新作を観てから遡って鑑賞した。

以前から良い評判を耳にしていたし、最新作の感想で「前作には遠く及ばない」という趣旨のものもちらほら見受けられていたのだが、確かに多くの面でこちらの方が良くできていると思った。

多くの評で指摘されているように列車という限られた舞台装置からくるサスペンスや、名作と呼ばれるゾンビ映画にはしばしば付き物の社会風刺、そしてそれと繋がる事だろうが人物造形。どのキャラクターにしても地に足が付いているというか、ああこういう人いるよね〜と思わされる人物ばかりだ。

最新作との対比としては、悪役の造詣が一番分かりやすいと思う。エクスプレスのあのオヤジ、ああいうやつは多分どこの国にもいるんだろうし、そこから沸き起こる胸糞悪さを感じながら観続けることになる。一方ステージの方のソ大尉やファン軍曹のようなカリスマ的に悪いやつは現実にはなかなかいないだろう。そもそも舞台装置から現実が崩壊したあとのディストピア的世界なわけで、その点こんな世界最悪だな〜と思いつつもどこか安心して、その非日常さを楽しむことができる。

だからステージの方を「前作には遠く及ばない」と片付けるのは僕的にはもったいないと思うし、エクスプレスにはないある種のポップさ(悪役に世界観にアクションなど)を楽しめる作品ではないか。(逆にエクスプレスの方の人物造形はややステレオタイプすぎる— 大企業の上の方のやつは自分のことしか考えない悪いやつでしょみたいな— 気がしなくもない)

言うまでもなく社会風刺は現代の韓国社会に向けられているのだろう。『パラサイト』が現代社会のシステムの帰結を描いたとすれば、本作はシステムそのもの、すなわち(単純すぎるという誹りを恐れずに言ってしまえば)新自由主義社会における人間の心理を、パンデミックという極限状態で浮き彫りにしたものだと思う。

それは自分さえ良ければ良いという社会、もっと言えばそのように振る舞わなければ生き残る事ができない社会だろう。そしてその競争に敗れたものは容赦無く切り捨てられていく。胸糞悪いことに、そういう振る舞いを一番身につけているあのオヤジは最後の最後までしぶとく生きているのだ。

他者への思いやりを皆が持ち合わせていれば生き残れたかもしれない、という人物が多いことはそのようなシステムへの批判になっているだろう。己の欲望のみに一心不乱に向かってくるゾンビという存在を、行き過ぎた資本主義における人々の姿と重ね合わせるならば、それらによって次々破滅していくという展開も強烈な皮肉かもしれない。

個人的にはそのような「嫌な社会」へのカウンターとして若者を据えているのが良いなと思った。父親と対照的に人への思いやりを忘れないスアンは言うまでもなく、野球部の青年たちも、我先に逃げようとする大人たちとは違って可能な限り人々を助けようとする。それに加えて年寄りたち(姉妹の片方やスアンの祖母の最期のセリフ「どうして皆けんかばかりしているんだい?」)を思い起こしてみれば、いつからか失われてしまったが、かつては存在した他者への思いやり。それをもう一度思い出してくれるかもしれない、これからの世代への希望を含んでいると言えないだろうか。生き残るのは無垢な少女と、子を宿した母親だし。

さらに言えば新自由主義的な社会では価値の無いものとしてほとんど人扱いされないホームレスが最後に見せる(あまり好きな言葉ではないが)自己犠牲もカウンターといって良いだろう。

もちろん、こういう設定はご都合主義かもしれないし、韓国社会についてそれほど詳しくはないし、「昔は良かった」的な言説は一歩引いて捉えるべきかもしれない。それでもやっぱり、絶望の中にも微かな希望を持たせてくれる作品は、映画を観ていて良かったと思わせてくれる。
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