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スプリットのJIZEのレビュー・感想・評価

スプリット(2017年製作の映画)
3.8
級友の誕生日パーティに呼ばれた女学生たちが帰り道に突如謎の男が同じ車内に同乗し催涙スプレーを噴射してきた事から誘拐され見知らぬ部屋に閉じ込められる23(+1)の人格が及ぼす脅威と脱出劇の全貌を描いたDID監禁ホラー映画‼基は24人の人格を宿す実在の多重人格者ビリー・ミリガンに倣ったのだろう。まず結論から言いましょう。終盤約30分で鬼畜ヒステリック展開(超フィクション)が凶行の果てに周囲を呑み込み暴れ回る暴力性が大味で最高,だった。また地上(外界)への脱出を試みる術で敵の領域(テリトリ)内で打開策を練る同じ低予算『ドントブリーズ(2016年)』を仄かに彷彿とさせ興奮が最後まで妥協なく押し寄せた。まず開幕,最初の約10分間で"(不可逆な)分岐点"を快調に描き切る突破口の手際はかなり評価したい。つまりアニヤ・テイラー=ジョイ演じる主人公ケイシーがマカヴォイ演じるデニスが居る車内で後部座席では二人が昏睡させられた圧迫する雰囲気の中,彼女が咄嗟に取っ手(逃げ道)へ慎重に手を伸ばす場面をスローモーションで追尾させながら画面へ尋常じゃない不穏感と負荷(圧)が同時に注ぎ込まれる。最初の安全圏(外界)から危険圏(監禁部屋)へ運び込まれる理不尽なプロセスは現実味に則し非常に秀逸であった。また原題の『Split』は"分裂"という意味。主に"照明(出番)"が当たる人格が表(主人格)に出てそれ以外は裏(交代人格)に隠れるDID(解離性同一性障害)特有の性質が作品の原動力となっている。それ自体は極めて画期的で特殊。別の人格が違う人格の演技を模倣してたり喜怒哀楽がバラけて女学生たちを困惑させる前半(希望)パートもほぼ捨て身状態の後半(絶望)パートとの対が取れ見事な起伏の運びかたであった。本物の主人格ケヴィンをめぐって敵側の起源を掘り下げる構成,というよりかはケヴィン含め他人格の異様さ不気味さに軸点が置かれているため女学生サイドに肩入れする事は出来たし善と悪が明確に区切られた作品だ。傑作。

→総評(無価値な人間を成敗する新ヴィラン誕生譚)
今月の暫定ベスト確定です。同時に今回で怪演を制したジェームズ・マカヴォイの最高傑作なんではなかろうか。主に潔癖症の男(デニス),無垢で人懐っこい男(ヘドウィグ),エレガントな男(パトリシア),はたまた24番目の男(怪物ビースト)など本編では23人中9人格が姿を現し万華鏡のように変化する変幻自在の表情と口調には圧倒される。マカヴォイの顔芝居1本で台詞に説得力が染み込む勝負力はスゴい。また女学生側が犯人の隙を突き逃走を図る脱出劇のパート(エンタメ性)が序盤から終盤まで低速で進み続けるためそれ自体で勝因が見込める題材だった。女学生たちがケヴィンの人格を見極め自分等で有利にコントロールしようとする機転や咄嗟の言動が凶と吉の運命を左右する意欲的な場面の数々には十分なカタルシスがある。つまり彼女等に"生への肯定"意識があるからこそ終盤で訪れる感傷的な場面の意図ではそれ相応の打撃力が作品にあり秀逸なんだと。犯人の正体は誘拐犯?複数犯?サイコパス?など監禁された理由を模索すれば尚楽しめ可能性に満ちるシャマラン流の意欲作だった。不満を言えば救世主(表)が崇められる事から人格同士で歪み合う仲違いの描写など人格が人格を封じ込めて『イット・フォローズ(2016年)』みたく群像劇の蒼い雰囲気を加えても尚楽しめた印象であった。あと結局,振り返ればデニスが1番の悪という事なんだろうか。無価値,不純,苦境を人生で未経験という理由もどこか具体性に欠け脆く感じた。ただ終盤で犠牲者を厭わず秩序が剥がれ落ちる辺りはやはり評価せざるを得ない。最後に次作『GLASS(原題)』でも『アンブレイカブル(2000年)』と今作を融合させたハイブリッド版という事で出来は脚本次第だと思われるがぜひ期待したい!誘拐された計画性よりも23(+1)の人格が宿すサイコ性に着目して鑑賞する事を是非お勧めします‼!
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