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一晩中のnetfilmsのレビュー・感想・評価

一晩中(1982年製作の映画)
4.2
 ほとんど光量のない夜の闇の中に浮かび上がる2つのシルエット、2人は抱き合ったまま夜の闇に溶け合い一つに重なる。シャンタル・アケルマンはその様子を僅かにシルエットのみが判別出来るような遠い距離から静かに見つめるだけだ。カロリーヌ・シャンプティエによるカメラも対象ににじり寄ろうとはせずに、遠目で2人の様子を見つめるだけ。最初は1組のカップルの恋模様の話かに思えたが声が違う。だが2人の表情は判別出来ない。いったい何組のカップルが劇中に出て来ただろうか?物語も何もなく、ただただとりとめのない断片だけがぶっきらぼうに飾りっ気のないままモンタージュされる。同じ夜なのかまた違う夜なのか?何もかもが曖昧模糊となる様なとりとめのない世界の中で男は女を想い、女は男に想い入れる。同性同士の愛も全て。その全ては夜の世界の話で、朝になれば全てはフラットになり、また新しい生活が始まる。朝になるまでの猶予と寂しさと愛と後悔。夜に最愛の人に書いた手紙は昼間に書いたそれとは全然違うエモーショナルな文体で、丸めて捨てたい衝動に駆られる。夜にしか感じられない不安、暗闇の中で心に去来する心にもない情念。夜は全ての孤独を浸し、乱れた心を闇が浄化する。螺旋階段に響く足音とジュークボックスから流れるメロディに乗せた2人のステップ。夜に溶け出した永遠のような一瞬と一瞬のような永遠。観始めてすぐ、ペドロ・コスタに決定的な影響を与えた映画なのだと察する。裏『ジャンヌ・ディエルマン』とも呼ぶべき愛すべき異形の1本。
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