ダラヲ

十三人の刺客のダラヲのレビュー・感想・評価

十三人の刺客(1963年製作の映画)
3.3
モノクロームでサムライを描く時代劇といえば黒澤明監督の映画「七人の侍」が有名だが、他にも「羅生門」や「座頭市」なんかも面白い。
その中でなんとなく見たのがこれ。なぜなら私はamazon primerだからだ。(amazon primeにあったから)


「時代劇なんて古臭いもん興味ねえよ、俳優とかも知らねえし」って人でもルパン三世で出てきた”不死人マモー”の中の人や、若かりし頃の里見浩太朗は見ていて気付くのではないだろうか。
菅貫太郎の演じる「松平斉韶」の完成された酷い馬鹿殿っぷりは他の時代劇にも真似されるほどで、似たようなキャラをどこかで見たことがあるかも知れない。
月形龍之介も出ているので今作では水戸黄門様が三人も居る。なんかお得な気分だ。


モノクロームなだけあって派手さは無いが、そのぶん観る側に映画の中へ没入する余地が残されており、白黒フィルム独特の繊細さと1カットの重みが伝わってくる。
これは昨今のデジシネ普及とそれに伴うリテイクに寛容な撮影環境ではとうてい表現しきれない特有のものではないかと私は思う。時代劇好きなら見ておいて損はない。

ただし最近の変にコメディタッチで無理やり感動路線に持っていくのが好きなキレイめヴィジュアル・イケイケ時代劇なファンには十三人の刺客はオススメできない。その理由を以下に説明する。



・時代劇の敷居は簡単には跨げない
冒頭の東映マークが出てからデデーンと題字、そのあと白のバックに延々とクレジットが流れるだけの映像をなんと1分以上も見させられる。ヒャッハー、まさに60年代だぜ!

フィルターが深めに掛かった、耳に直接くるような形容し難い薄さのBGMも手伝ってこの時点で観るのをやめる人もいるのではないだろうか。私は1回止めた。またいつか見よう、と。そういう意味でも十三人の刺客はオススメできない。



・何を言っているのかわからない
オープニングのナレーションで淡々と文語調で話す芥川隆行に密談中のお偉方たちを始め、話す言葉はすべて武家言葉であり現代っ子な我々にはなかなか理解しづらい。

そもそも皆”サムライ”なのだから市井の言葉が出てくる方が少なく、名称も○○藩*万石△△守家中の□□江戸家老職なになに~とやたら固有名詞が多い上に超長い。
初対面同士の武士が第三者の説明をしだすともうわけがわからなくなるので、物覚えの悪い私はその度にいちいち映画を止めてwikipediaを読む羽目になった。
人物相関だけでも頭の中で作るのに一苦労なわけだから、そういう意味でも十三人の刺客はオススメできない。




・単純に飽きる
こらえ性のない人にはそもそも50年前の映画なんて向いてないのかもしれない。私がそうだからだ。
現代の洗練された映画における目まぐるしいアクションやあっと驚くサスペンス、難解なミステリーとは対極の、淡々として渋い武士の強烈な縦社会に生きるドキュメンタリーを2時間もノンストップで鑑賞し続けられる体力と精神力が要求される。
はっきり言って退屈だし私はトイレに2回立ち煙草を10本吸った。武士達と同じように我々にも忍耐と集中力が必要なのだ。
そういう意味でも十三人の刺客はオススメできない。




・後半に向かって失速が加速する
何を言ってるのかわからねーと思うが、あ、ありのままに見たことを書くぜ!

権力闘争を描いた映画は最後には上意を受けたものが勝つのが相場なので、コレももちろん偉い人達が勝つ。とくれば最後の見どころは殺陣のシーンだろう。
水戸黄門のようになまら強い二人が脇差片手にバシバシやったりだとか、無双ゲーのごとく盲目の按摩がチュインチュインやってくれるのか。
答えはNOだ。

「刀なぞ泰平の世に抜くことなし」な時代で13対53の戦いである。
腰が引けて逃げ惑う者やこけて地面に這いつくばったりするばかりで、正々堂々な所謂ブシドーとは程遠いものだった。間の抜けた焦らしプレイにはカタルシスも萎んでどっかへ行ってしまうだろう。

もっともこれは監督の意図したところで、”平和な時代に人を切ったことのない侍が刀を持った殺陣”の表現というのだからなかなかリアリスティックで凄みがある。
だがその”ワザと”にまで意識を向けず、見た目だけのチャンバラ時代劇を脳細胞が欲している人には物凄くつまらない映画に見えるだろう。
そういう意味でも十三人の刺客はオススメできない。



この映画はふざけたモンスター上司のせいで文字通り振り回されるはめになった、板挟みに遭う管理職階級の生き辛さをフィーチャーした作品なのだ。
日々理不尽な命令にもお家を守るためと耐え忍び、忠実に遂行する。時には命を捧げなくてはならないこともある。マッドなサイエンティストにお脳のあたりをいじられるまでもなく彼らは”YES”か”はい”しか選べないのである。そんな悲しい生き物たちの宿命を観る事に現代っ子は貴重な時間を費やしてはならない。そうだ、京都へ行こう。人生に疲れてどうにもいかない時には日常の喧騒を離れてどこか遠くへ行ってみるのも良いかもしれない。そう思ってしまう。そういう意味でも十三人の刺客はオススメできない。
ダラヲ

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