HicK

ドリームのHicKのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.6
《差別のもどかしさと多様性社会の利点》
〜小便の色は皆一緒〜

【カッコいい】
タラジ、オクタヴィア、ジャネールの主演3人がとにかくカッコいい。黒人、女性、子持ち、という三重苦で『勝ちが見えるとゴールを動かされる』状況のなか、『肌の色は変えられないから前例を作る』と突き進む彼女たちが逞しかった。

【当時の"常識"】
白人専用と黒人専用に分けられた公共施設。colored(黒人専用)の印が書かれた水飲み機、トイレ、バスの席、図書館の本、劇中ではコーヒーのポットまで分かれていて、それが当然の事として劇中の人物たちはいちいち反応しないのが今では恐ろしすぎる。やっぱり"常識"って常識じゃないよなぁ。

【ゴールが動かされる】
メアリーは念願の技術部署に昇進しながらも、指定の学校(白人専用)の卒業がエンジニアになれる条件だと突きつけられる。ドロシーもスーパーバイザーの不在により"代理"で計算部のスーパーバイザーを何年も担当しているが、いつまでも"代理"のまま。正式な昇進を願い出ても却下される。実力はあるのに肩書きだけはもらえない。黒人であり女性であるため前例がないから。壁の先には壁。いいように使われる彼女たちと周囲が疑問すら抱かないおかしな環境がもどかしい。メアリーが放った言葉『勝ちが見えるとゴールが動かされる』は、この状況をよく表していてかなり心に突き刺さった。

【トイレが無いんです!】
1番印象的なシーンはキャサリンがスペース・タスク部長のハリソンに向かって感情をぶつけたシーン。近くに黒人用のトイレが無く、別棟まで時間をかけて行っている彼女に対して部長が「いつもどこに行ってるんだ!?40分も不在にして!期待してるんだぞ」と言い放った瞬間、彼女の溜まりに溜まった怒りが爆発。『トイレが無いんです!!』。その瞬間の彼女の表情も爆発。我慢してきた不満を一瞬で顔に表したタラジ・ヘンソンのみごとな演技。案の定、それに対する周囲の反応は「え?どういう事?」のような感じ。このシーンはかなりスカッとしたと同時に、理不尽さが頂点に達しちょっと涙。

その後、ハリソンがトイレの『黒人専用』の看板をぶち壊して誰もが使えるようにした時の決め台詞、「NASAでは小便の色は皆同じだ!」は実に気持ち良かった。くだらない差別をしていては生産性が低くなるとハリソンが身をもって実感した瞬間でもある。このシークエンスは自分にとって忘れられない場面になった。

【演出】
劇中は当時のテレビ放送を多用して所々に挿入しているのも面白い。また、音楽がかっこいい。ソウルフルな曲とアップテンポなBGMが多く、人種差別という深刻なテーマを扱っていても重くなりすぎず、主人公たちのサクセスストーリーとしてエンターテイメント性が増している気がした。

【演技】
タラジ、オクタヴィア、ジャネール、主演3人はそれぞれの個性を活かした演技が素晴らしかった。オクタヴィアの包容力、ジャネールの前向きさ、そしてタラジの控えめな演技から見せ場の演技まで、その幅の広さに引き込まれた。脇役だとキルスティン・ダンストに目がいった。出番は多く無いが、上に振り回される女性レッテルの中間管理職という存在感がちゃんとあった。本当に疲れていそうな感じが良かった。

【総括】
彼女たちの苦境にもどかしさを感じながらも、音楽も含め薄らと軽快さ・ポップさもあり、最後はマーキュリー計画をハラハラしながら見守った。上質なエンターテイメント作品だった。3人の突き進んでいく感じがとにかく最高。

彼女たちには前例はなく、彼女たち自身が立派な前例。やっと現代社会が気づき始めた「差別にとらわれては生産性が損なわれる」ということ、「多様性社会では多様な才能が生まれる」ということ、その原点を描いた素晴らしい作品だった。

【それにしても】
邦題がヤバい。どんな作品にでも付きそうなほどベタ。せっかくラストは実際の本人たちの写真と共に"隠された人物"っていう意味の「Hidden Figures」ってタイトルが出るんだから、和訳かもう少し考えて欲しかった。(隠された数字、事柄、物語って意味もかかってるんだと思う)。
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