福福吉吉

遠い夜明けの福福吉吉のレビュー・感想・評価

遠い夜明け(1987年製作の映画)
4.0
◆あらすじ◆
南アフリカ共和国の報道記者のドナルド・ウッズは黒人運動家のスティーヴ・ビコと出会い、彼と接する中で黒人差別の実態を学び、彼の考えに共感を得るようになった。しかし、ビコへの警察の圧力はエスカレートしていき...。

◆感想◆
本作は1970年代のアパルトヘイト(人種隔離政策)が実施されていた南アフリカ共和国を舞台に、白人記者と黒人運動家の交流を軸にしながら、国として黒人への圧政、その中で深まる黒人たちの不満を丁寧に描いており、それが黒人を擁護する白人にまで圧力がかかる白人たちの特権意識、横暴さを露にしていました。

本作の主人公の白人記者のドナルド・ウッズ(ケビン・クライン)は元々、リベラルを標榜しておりアパルトヘイトに反対の意思を持っていたが、当初はそれほど危機感を持っていませんでした。しかし、黒人運動家のスティーブ・ビコ(デンゼル・ワシントン)と話し合い、交流を深めていくうちに黒人たちへの差別の危険性を認識していくようになります。ウッズの思考の変化は観ている私たちに近いもののように感じました。イメージだけなのと実際に感じることの違いを良く表していたと思います。

スティーブ・ビコは黒人運動家として政府から危険視されており、あらゆる活動を制限され、また、再三にわたり警察による理不尽な取り調べの憂き目に遭っています。しかし、彼の考えは変わらず黒人が本来有する権利や能力を取り戻そうと動きます。彼の言論は穏やかで攻撃的でないにもかかわらず相手を上回る正当性を表しており、白人の判事や警察にも温和に反論します。結局のところ、南アフリカ共和国の白人権威主義者たちにとって言論では太刀打ちできない存在だっただけに彼を危険視したのだと思いました。

ストーリーが後半を迎え、衝撃的な出来事が発生し、その中でウッズにも警察などの圧力がかかり始め、決断を迫られます。ここで彼は亡命して世界にこの事実を公表しようとするのですが、この展開は息をのむ緊迫感があって、最後まで安心できませんでした。

最後のスタッフロールで示された事実は南アフリカ共和国の闇を実感するものでした。

実話に基づく作品ならではのリアリティとともにアパルトヘイトの実情があまりにも重く、観ていて陰鬱な気分になりました。しかし、これは知っておくべき事実であり、観て良かったと思います。

鑑賞日:2024年2月19日
鑑賞方法:NHK BSプレミアム
(録画日:2023年6月17日)
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