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否定と肯定のバナバナのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
4.0
アメリカ人のユダヤ系女性歴史学者リップシュタットが、親ナチのイギリス人歴史家アーヴィングにイギリス法廷で訴えられる。
訴訟内容は、リップシュタットの書籍の中で、ホロコーストを完全否定しているアーヴィングの事を“嘘つき”とコケ下した侮辱罪。

幾らAUから離脱もしちゃうイギリスだからって、ホロコーストを肯定している側を勝たせないだろうとは思うのだが、
イギリスの法廷では、被告側がアーヴィングのホロコーストが無かったという論拠を否定して、“侮辱ではなく、本当の事を書いただけ”だと証明しないといけないらない。

リップシュタットが裁判費用を集めていた時、アメリカでは順調に費用が集まったらしいが、地元イギリスのユダヤ人協会に話を持ち掛けると「示談にするなら金を出してもいい」と、意外な事に拒否される。
アメリカ在住のユダヤ人は、戒律の厳しい宗派の人は少なく、ほとんどの人が明るく朗らかでラフらしいのだが、
ヨーロッパの金持ちユダヤ人は、未だ従業員の休みも週休2日ではなく日曜だけだったりと、凄いケチだと聞く。
せっかく、ホロコースト否定論者を法廷で完膚無きまでに叩き潰すチャンスなのに、その費用援助に加わらないとは、「これだからユダヤ人は」と未だに色眼鏡で見られる原因になっちゃってるんじゃないの、と思ってしまった。

映画では裁判は思っていたよりあっさり判決が出たように見えたが、実際はアーヴィングに証言させない為に、イギリス、アメリカ、ドイツ、オランダの歴史専門家を招集してタッグを組み、万全の体制で裁判に挑んだのだそうだ(そりゃそうだろう。上げ足だけで、もしもの事があったらいけないもんね。でも、そこのところは割愛されていました)。

ウィキペディアによると、結局アーヴィングはオーストリアの別の裁判でも、2002年に破産宣告を受け、オーストリアで3年の禁固刑に処されたらしい。
この人は自分で自分の弁護をしていたけど、プロの弁護士もこういう内容の訴訟に関わりたくないよね。
もし勝ったとしても、汚名が一生ついて回ってしまうのだから。

難しい法廷用語も出てきて、今どっちに有利なのか分かり辛い(それは劇中の中で、リップシュタットにも言わせていたが)。
この裁判に勝つのに、最低限の必要なことだけで挑む弁護士達に、法廷展開が分からないリップシュタットさんが「どうしてこの内容は武器にしないの!?」と、興奮しながら自己主張していたのが如何にもアメリカ人ぽかった。

リップシュタットさんは歴史学者なので頭も良い筈なのだけれど、やはり裁判の事は「餅は餅屋に任せる」のが、どこの国でも同じなんですね。
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