宗純

否定と肯定の宗純のネタバレレビュー・内容・結末

否定と肯定(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

学生時代にドイツ近現代史の教授の講義を受けていたことがあり、戦後70年を迎えようという辺りから、戦時映画とか戦後ドイツ・ナチス系の洋画を年に数本観るようになりました(私自身は日本史専攻でした)。これもその一本。ちなみにその教授のご著書がまさしく『ホロコースト』(2008年)だったので、ホロコーストの否定論者との裁判がロンドンで2000年に起きていたという事実に驚愕しまして、そんな興味関心からこの映画を鑑賞しました。

少し前に『三度目の殺人』を観ていたのもあり日本の法廷と違う、本作で再現された英国王立の裁判所の法廷内部も「流石王立…カツラ被るんだ…」と驚きつつ、法廷戦略を練り上げてあくまで冷静に対処して裁判に勝つ事を追求する弁護団に対し、主人公のリップシュタットが感情の部分で揺れ動いてしまうところにやきもきさせられました。リップシュタットは若いし美人で実際聡明で有能なんでしょうが、自分の名前とか、良心を預けることについて語ったりと(彼女が裁判で背負うものを考えると仕方ないですが)気も強いしプライドも高そうで、でも最後の記者会見での受け答えは過不足なく整然としていたので、なんか…強烈というか魅力的な人に描かれてました。

アーヴィングが法廷で他の学者に指摘していたことは、「ホロコーストがあったかなかったか」って論点では確かに瑣末なんですが、学者って学者間で共有して論じてればオッケーってみたいな部分は確かにあるんだろうなと思いました。勿論論文で評価されることが重要な学会ではそれで良いんでしょうけど、助手が作図したとか穴があったかなかったかとか、そこで揚げ足取られて口撃食らうのかっていう…。弁護団のランプトンが証拠集めを徹底させようとしてたのも、相手は学者というより論客で、場所は学会の大会じゃなくて法廷だから、同じ土台で戦わせちゃ勝ちに行けないというのがあったんだろうなみたいな。

終盤で裁判長がアーヴィングの改ざんや解釈や反ユダヤ主義思想についてランプトンに質問したシーンをみて「アーヴィングがあまりにアレ過ぎて弁護団に虐められてるって同情したんでは…」とさえ思いましたし、つくづく立証責任が被告側って辛い…とも考えたり、判決を勿体ぶるつくりをしてるのも憎い演出でした。

ナチス犯罪が絡む映画には映像が流れるものもありますが、この映画では強制収容所を見学に行ってはいるけど、関連する映像や写真などは出てこなく、劇中でも問題になったりしてましたが法廷で生存者の証言をさせないことも徹底させており、証言そのものも出てこないです(その意味では、ホロコーストが何かの最低限の知識は必要とされる作品といえる)し、あくまで弁護団と原告の法廷での証言で物語が進んでく点が印象的で、それがこの映画を単純にナチスドイツ映画の枠に嵌めず、現代に通じるものとしているのは確かだなと思いました。
放映時間も110分と手頃(でももうちょい絞って100分でも良い)だし、もっと沢山の人に知ってほしいなあと思いつつも、原作も読みたいので帰りに買いました。
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