半兵衛

おんな極悪帖の半兵衛のレビュー・感想・評価

おんな極悪帖(1970年製作の映画)
3.5
『地獄、極楽、覗きからくり』_。中でも地獄を見ることは落語の『地獄めぐり』や中川信夫監督の『地獄』、ダンテの『神曲』などでもわかるように無惨だけどどこか楽しい。そうした意味ではこの映画も一種の地獄見物と言える。

貧しい身分から這い上がり自分と藩主の子を世継ぎにしようとする出てくる主人公の側室安田道代をはじめクレイジーな殿様の岸田森、基本ニヒルだがどこか不気味な田村正和の美剣士(後年の『眠狂四郎』や『乾いて候』といった田村のニヒルキャラの原型では?)、いかにも奸計に長けた佐藤慶などメインキャラは悪人ばかりで各々が自分の欲望のために突っ切る姿は清々しさすら覚える。そんな奴らばかりなので、目先のことしか考えない小悪党はすぐに処分されていくのがどこか小気味良い。

ただそうした強烈なキャラは多いけれど、それを支える物語は波が少ないため全体的に淡白な作風となっている。またこうした残酷時代劇の本家といえる東映が持っていたぎとぎとな油にまみれた濃い味付けがなく、エロや残酷な描写はあっても大映らしく上品で端正な仕上がりなので物足りなさがあるのも事実。

往年の大きなセットやエキストラは無いものの、西岡善信による細やかな美術や大映スタッフの繊細な技術、渡辺岳夫の音楽が風格をもたらす。冒頭と終わりに出てくる祭礼の、狭いセットの中に人混みや小道具を置いて賑やかさを伝える技術に唸らされる。

池広一夫監督によるシャープな演出も随所で映画を引き締めており、特に冒頭岸田森の殿様が部下の首を斬る場面のカメラは割ってはいるが斬る前と斬られた後のタイミングを絶妙に合わせ本当に首を斬っているように見せる場面や血まみれになりながらの田村正和が岸田森を殺すシーンの長回しを効果的に使った場面などに光るものがある。

メインとなる安田道代の悪女ぶりも堂に入っており、猫のような目、甲高い笑い方、相手によって色仕掛けで籠絡し役に立たなくなったらごみを捨てるように見限る様は原作者の谷崎潤一郎の理想的女性を具現化している。そうした演技力の高さといい美貌といい安田が大映で主演を演じていた『おんな』シリーズの集大成に相応しい。

ラストの展開は一捻りあるけれどそれを担う役者本来キャラクターと役があまり合致していないので、「真の悪党とは」というテーマがあまり生きないのが残念。それでも皮肉なオチと安田道代の100点満点の最後の演技が最高。

ちなみに後年安田は『必殺仕置人』でこの役柄を継承しているような愛犬を必要以上に寵愛する悪女(こちらは殿様の正式な奥方)を演じていて必見、側になよなよした田村正和や美人だけど武芸百般には見えない小山明子ではなく『北斗の拳』に出てきそうな人一倍デカい体格と顔立ちの大前均が控えているので迫力がアップしている。そんなクレイジーな悪党ぶりに、殺害せんとする凶暴な殺し屋山崎努と沖雅也が苦戦するのも納得。
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