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ずっとお城で暮らしてるのkanacoのレビュー・感想・評価

ずっとお城で暮らしてる(2018年製作の映画)
3.0
人の〈悪意〉が織り成す〈人怖〉タイプのゴシック恐怖小説『ずっとお城で暮らしてる』の実写化。愛する姉を奪おうとする余所者と戦う妹の物語。映像になっている分より客観視できる形へ。〈信用できない語り手〉の小説とはまた違うテイストだけど怖い部分は共通かな。果たして、一番モンスターは誰?🤔(140文字)

****以下ネタバレあり&乱雑文****

◆あらすじ◆
18歳の娘メアリ・キャサリン・ブラックウッド、あだ名はメリキャット。28歳の姉コンスタンスと、足が悪く病を抱える叔父と3人で古い立派なお屋敷に暮らしている。他に家族はいない。ある日「砂糖にまぶされていたヒ素」でみんな毒殺されてしまったからだ。姉が犯人だと疑われているけれど、メリキャットは誰よりも姉のことを愛している。村人からも嫌われて、外との交流もできる限り絶ち、閉じこもった世界で平穏に暮らしていた。しかしそこに美貌の姉と財産を狙う従兄弟のチャールズが現れて…。

❶人の〈悪意〉が織り成すゴシック恐怖小説『ずっとお城で暮らしてる』の実写映画化

私もお気に入りのゴシックホラー小説の1冊『ずっとお城で暮らしてる』の実写映画化。ゴシックホラーといっても幽霊などの怪奇小説ではなく、読んでいて嫌な気持ちになってくるバチバチ〈人怖〉タイプ。ほんのりとミステリーも入っていますが、そこはそんなに問題ではなかったりします🤔

18歳の女性だけど精神年齢がかなり幼いメリキャットが主人公。資産家の娘である彼女は最愛の姉コンスタンスと体が不自由で認知症も抱える伯父と3人で暮らしています。〈この屋敷で他の家族は毒殺されている〉という過去を持つ彼女たちは、村人から忌み嫌われています。でもいいのです。何故なら、メリキャットは姉だけを愛しており姉だけが大切で守ると心に誓っているからです。病を患う伯父さんにも優しくしてあげなければなりません。でも自分たちを煙たがり嫌がらせをしてくる村人は大嫌い。自分と姉の2人きりの世界には一切の他者は必要ないのです。絶対に…。

そう!姉さん溺愛のメンヘラガール、メリキャットちゃん🤩

そんな大事な姉と屋敷の財産を狙ってやってくる部外者の従兄弟のチャールズ…。さぁ、その後の展開はお分かりいただけるだろうか…|qд°`)))ブルブル

とはいえ、例えばメリキャットが真性のサイコパスで無双するというようなパフォーマンス重視のお話ではありません。あくまでメリキャットは精神年齢が幼く、空想の世界に生きて“おまじない”などをして過ごすような性格です。姉妹だけでお屋敷に閉じこもる、メリキャットの空想が彩る閉じた世界=お城。“ずっとお城で暮らす”というメリキャットの幸せな日々。〈それを守ろうとするメリキャットの他者への悪意〉VS〈それに介入したり破壊しようとする人々のお屋敷の人間への悪意〉という、登場人物が全員狂気を孕み〈悪意〉が溢れる世界観をローテンションで描く物語です。

❷うーん。難しいよーこれは難しい😖私は断然、小説派です!

実写映画化すると聞いた時「え?無理では??」と思ってしまった作品でした。今回、再鑑賞するのに合わせて折角だから読み直そうと思ってそうしましたが、やっぱり映画と小説は印象が違います(そりゃそうだ)😶

というのも、原作小説はメリキャットの一人称。全てメリキャットの主観で語られます。そうして読んでいると次第にメリキャットのことを〈ヤバイ女〉だと気がつきますが、狂人は自分のことを狂人だとは思っていないため彼女の意見のみが駄々洩れであり、その視点から逃れられずメリキャットに強制的に心を寄せて浸ることになります。いわゆる「信用できない語り手」系でありつつも、メリキャットの歪んだ視点で語られる洗いざらいに晒された〈人間の悪意〉に恐怖するという感じです(だから実際、それが真実かは分からない余韻があります。メルヘンっぽさも小説の方が強いです)。

映画は、映像化しているのでより客観視できる形で描かれているように思います。主人公はメリキャットですが彼女の視点だけで描かれません。メリキャットの心のうちは独白も少しはありますが、無言のパフォーマンスも多い。きっとこの無言の時に「心の中ではめっちゃ喋ってるんだろうなー」と推測しますが映像だけでは彼女の思考は伝わりません。

そのため各キャラクターの行動への評価が平等になり、小説以上に誰1人にも感情移入ができずキャラクターヘイトがより高まりやすく、もっとイライラしました。一方で視覚的になったことで小説ではよく分からなかった部分が推測しやすくなっていたように思います。どうして家族は毒殺されたのか…という部分は分かりやすくなった気がしました。

本作の有名な〈村の子供たちがメリキャットを嘲笑う際に謡う歌〉以外に、コンスタンスがメリキャットに頻繁に言う「おばかさんね メリキャット」という小説のセリフが好きだったのですが、映画ではなかったのも残念だったかな😌

❸果たして、一番のモンスターは誰なのか…🤔

自分の空想の世界に閉じこもりそれ以外を許さず、介入してきた者を非情にも容赦なく排除する妹?
まるで有害な男性性の象徴のような、横暴で“お金”と“従う女”を奪おうとする従兄弟?
ずっとニコニコしているだけで、ただただ個はなく周りに流され常に依存先の色に染まる姉?
他の家族と同様に毒殺をされるはずだったほどの“何か”をしたであろう伯父?
それとも、普段嫌っている相手が窮地に陥ったら集団心理で気を大きくし大喜びで過剰な攻撃をしかけ、それにより悲劇が起きたらやっと我に返っていそいそと解散し、その後にそわそわと優しい言葉や行動を被害者へあからさまにかけはじめる村人たち???

一番恐ろしいのは、だぁれ?

みんな、自分のことを〈悪意に染まって傲慢にも行動するモンスター〉だなんて思ってないよ。

🌸🐝🌸「この映画の原作である小説『ずっとお城で暮らしてる』は1962年に女流作家シャーリイ・ジャクスンが書いた恐怖小説ですが…人間の〈悪意〉の恐ろしさは60年たった今も性質が変わらなそう。まぁ…人間、60年じゃ変わらんか🤔」
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