しまかす

君の名前で僕を呼んでのしまかすのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.7
こんなにも淡く美しく、瑞々しさに溢れる上質な映画に私はこの先どれだけ出会うことができるのか。
爽やかな夏の空気とともにスクリーンの向こう側から伝わる彼らの息遣い、煌めき、熱情。確かに存在した夏のはずなのに、これらは虚構の世界の出来事なのだという事実がさらに私を感傷的な気持ちへと追い込む。

エリオ(Elio)の名はギリシャ神話における太陽神ヘリオース(Hēlios)に由来する。一方のオリヴァー(Oliver)はもちろん、植物のオリーブ(olive)からだろう。
今作、二人は共にユダヤに信仰を持つ人物であるという側面が強調して描かれていた。(エリオが本当に信仰に篤かったかどうかは分からないけれども、六芒星にオリヴァーを見るシーンはとてもチャーミング!)
オリーブは宗教において非常に象徴的な意義を持った存在で、とりわけオリーブオイルを「聖なるもの」として扱うのがユダヤ教だ。ハヌカの起源については詳細を省くけれど、この祝祭でも火を灯す際には必ずオリーブオイルが用いられる。
エリオとオリヴァー、君が僕を呼ぶ、その名前にもやはり隠された意図があるのではないか。
二人の灯した光だけは確かに最後まで輝き、弾け続けただろう。

時代設定も憎い。自分で経験したことはないはずなのに、どこかノスタルジックな80年代の空気。イタリアの夏。スマートフォンは愚か、携帯なんてデジタルなものが存在しては実現し得なかった世界観だからこその1983年という側面もあったろうけども、フィルムサイズも相まって最高の演出となっていた。

何よりも、もう、ティモシー・キャラメもアーミー・ハマーも余りに美しすぎる。繊細な演技力を持ったギリシャ彫刻。神は二物も三物も与えてしまった……
さらに、監督をして「光の彫刻家」と言わしめる撮影監督の素晴らしい光使いが魔法のように二人を切り取っていく。
どのシーンも芸術品のようで、まつげなんかはもはやスイーツのようだった。
本当に彼らは同じ時空の生命体なのか?


最後にひとつ、ユダヤにはすべての人は3つの名前を持つという格言があるらしい。
映画のタイトルとは全く関係がないかもしれないけれど、私の中ではこれが甚く腑に落ちた。

"Every man has three names: one by which his parents call him; another, by which he is known to the outside world; and a third, the most important, the name which his own deeds have procured for him."


70000
しまかす

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