ごんす

ムーンライトのごんすのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
5.0
再鑑賞してベスト級に好きかもしれないと思った一本!


ネグレクト、ドラッグ、いじめなど重たい問題が含まれているがその様な問題に襲われなかった自分が観てもシャロンに何か自分を重ねて観たくなる。
辛い気持ちになるシーンもあるけれど心の中で大切にしたい映画。


シャロンの幼少期のパートにあたる1章“リトル”

かけがえのない存在となったフアン、彼が初めて自分を肯定してくれる大人だったわけだが、シャロンにとってフアンがどれほど大きな存在だったかは章が進み少年期、青年期の彼を観ていくと明らか。
母親からネグレクトされていたシャロン、彼に優しくしてくれたフアン。
そこに悲しい負の連鎖があったのが本当に辛い。
人は皆、本来は優しいのではないかと信じたくなるぐらいフアンを演じたマハーシャラ・アリは見事。
全然内容違うけど、羊たちの沈黙のレクター博士が出演時間にすると全然短かった驚きと同じくらい、この映画もフアンの登場時間は短い。
だが全編に渡ってフアンの存在が効いている。

自分にもフアンのような人がいたんじゃないか、またシャロンが海に行くと素直になれるように、そんな場所が人にはとても大事なのかなと考えさせられる。

オカマという言葉の意味を問うシャロンに対しフアンが「ゲイを不愉快にさせる言葉だ」「もしゲイでもオカマと呼ばすな」と話すシーンが印象的。
まだこの時のシャロンは自分がゲイなのかハッキリとは認識していない様子だったけれど自分が否定されることを受け入れるなと力強く教えてくれている。

再鑑賞した時は彼がこの先どんな大人になっているか分かっているので、幼少期パートのフアンとのシーンは涙が出てしまった。


少し成長し少年期になると同年代で唯一心を許していたケヴィンに対して友情以上の感情をハッキリと認識する。
タイトルは1章の“リトル”から2章では本名の“シャロン”になっている。
ついに本当の自分自身を見つけられた、そして受け入れられたような美しい時間と同時に容赦なく向けられる悪意が彼を襲う。
幼児期フアンに初めて泳ぎを教わった日と同様にこの2章も本当に海が美しい。


最終パートに当たる3章ではタイトルが“ブラック”となる。
2章の本名“シャロン”から“ブラック”に変わったことから彼が自分自身ではいられなくなってしまった、または自分を守る為に何か役割を演じてここまで生き抜いてきたのかなと感じる。

少年期とは別人の力強い肉体になっているが不思議と柔らかな雰囲気も隠しきれていない。
十分に愛情を注いでくれなかった母親と会話するシーンで流す彼の涙がそれを物語っている。
人を赦すことで自分も救われるなんて言うとあっさりしすぎかもしれないが、傷ついた心が少しだけ安らいでいるような涙だった。

そして、とある人物から呼び出しがかかり物語は静かにクライマックスへと向かう。
やはりこの最終章でも自分の大切な場所が出てくる。

シャロンがゲイであることや非常に危険な区域で育ってきたことからLGBTや貧困を題材にした重いテーマの映画かと思いきや一人の男の子がアイデンティティを模索する普遍的な青春映画の側面が強く、観た後優しい気持ちになれる映画。
ごんす

ごんす