モミジ

ムーンライトのモミジのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.7
〝俺に触れたのは一人
 お前だけだ
 あれ以来ずっと 〟

黒人社会を背景にした、直接的で純粋すぎる愛の話でした、凄く良かったです
純粋な愛は美しい!

ただ、この映画に対する感想は黒人社会に対する認識でだいぶ変わってくるでしょうね

「フアンはあんなに良い人なのに、何故麻薬ディーラーをしているの?」と思った人もいるかもしれませんが、これこそが今の黒人社会が抱えている闇です
アメリカではその社会構造に起因する絶対的な人種間の格差が存在します
根本的な話をすれば、黒人たちは1863年の奴隷解放宣言により「40エーカーの土地とラバ一頭」だけが与えられ自由の身になりました。逆を言えば、白人たちが資本主義の中経済的に発展していく中、黒人たちは皆一列で貧困のスタート(元奴隷という肩書付き)を切ったわけです。
そのため、黒人には白人のような高度な教育、環境がそもそも用意されておらず(しかも1964年に公民権諸法が成立するまで白人と黒人を明確に区別するような法律が存在)、貧しい環境に身を置くしかできなかったという状態でした
貧しく荒れた環境に生まれた人間は、またその環境に適応した人格へと成長(社会的な環境決定論)、といった負のサイクルが発生し、黒人社会はmadcityへと発展してしまうのです
kendrick lamarが『to pimp a butterfly』というアルバムの中で〝長く厳しい環境に身を置くうち、芋虫(黒人)は蝶(人間的な才能、思慮)を弱さと考えるようになり、目先の利益を追い求めるようになる。日々の暮らしに追われて画一的な存在になるんだ。自分を忘れ、周りと同じような考えを持つようになる。〟と歌っている通り、一部の才能を開花させた黒人たちは白人社会の中で職を持ち生活できますが、底辺層の多くの黒人は手に職が無く、生活費を稼ぐために黒人社会の中で最もノウハウのある麻薬ディーラーに手を染めてしまうわけです
なので、年々黒人の社会的地位は向上してはいますが、それでもやはり、アメリカで黒人として生まれることは「人生ハードモード」であることに変わりありません
この映画自体には、アメリカ社会に対する風刺というようなテーマやメッセージ性は希薄だと感じましたが、背景としてリアルな黒人社会を描写する事で訴えかける意図は少なからずあったかと思いました

が、この映画の主題は「黒人の哀しさ」ではなく、「黒人の美しさ」と「永遠で屈折することの無い愛」なので、黒人社会を知った上で映画的美しさを噛み締めるのが一番楽しめると思います
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