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ムーンライトのチーズマンのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.2
「ムーンライト」

なんのへんてつもないこの言葉に思った以上に自分が今まで馴染みがなかったようで、すぐ思い浮かんだのが「ムーンライト伝説」ぐらいしかありませんでした…。
ちなみあの曲の歌詞とこの映画の情景が、あながち違和感なかったのでなんか可笑しかったです。


さて。

良い映画でした。

淡々としていてあまり起伏は無く、分かりやすいような娯楽というのはないです。
しかし、主人公のシャロンを含めて登場人物達の感情の動きを繊細に表現した演技や演出、それを決して逃さないカメラワークや美しい映像がちゃんとこの作品にとって意味があって、例えば今公開中の『キングコング』とはタイプは真逆だけどこれも“映画”だなあと思える見応えのある内容でした。

LGBTの映画ではあるけど、何か問題提起するようなものではなく、ただ“愛”と“アイデンティティ”を描いてたと思うので、全然説教臭くないところも良かったです。


「ムーンライト」
まあ日本語で言うなら月明かりということですが、“黒人の少年達は月光のもとで青く見える”と劇中で言っているようにこの映画の内容的にも意味深いタイトルです。

少しずれたところから考えると、まず月は恒星ではないので自らが光ることはできません。
私達が見てる月の明かり…ムーンライトは月が太陽の光に照らされて、その反射で輝いてる光ですね。

そしてこの映画も、なにかに“照らされる”ということが色々と印象に残る作品でした。
主人公のシャロンも、彼にとっては父親のような太陽のようなフアンという人物に照らされることで、初めてシャロンの物語が始まります、フアンとの海でのシーンはそういう瞬間のような気がしました。
「ゲイでも“オカマ呼ばわり”させるな、自分自身で生き方は決めろ」
つまり《お前は、お前だ》 と。
肯定してあげる、ということはその人を光で照らすということなんです。
その点、実の母親であるポーラは子供時代のシャロンに光を照らしてあげてたのでしょうか、いや、むしろ彼女自身がこの映画のテーマカラーである青とは違う妖しくて攻撃的にすら感じるショッキングピンクの光に照らされてたのがすごく印象に残ります。
他とは違う息子に光を照らせない自分を、間違ったモノで“負の肯定”をしているのだと思いました。



この映画の意義。

この映画の主人公のシャロンはマイアミの貧困層の黒人でシングルマザーである母親の愛にも恵まれず、なおかつ自分がゲイであることの大きな葛藤を心に押し込めて毎日生きている、そんな黒人の男の人生を、貧困層の黒人の男同士に生まれた愛を、きっと多くの人は普通なら見向きもしなければ想像力を働かせることもないでしょう。
しかし“映画”という光に照らされて、このマイノリティの男の人生が光ったことで初めて我々も見ることができました、そしてもしこの映画を良かったと感じた人ならば人が人を愛するということは例え黒人の男同士だとしてもそれは美しいことなのだと、もうイメージすることができるはずです。その為には映画の映像が綺麗である必要があったのだと思います。

そして今度はこの『ムーンライト』という作品自体に照らされて、シャロンと同じような苦悩や葛藤を抱えた人達が、夜と同化した自分自身を、その輪郭を、アイデンティティを光らせることができれば良いなと思います。

あのラストシーンのように。


『LA.LA.LAND』をおしのけてアカデミー賞作品賞を受賞したのも納得できました〜













まあ、LA.LA.LANDのほうが好きなんですけどね。笑
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